【茨城県】いがらしクリニック 医師インタビュー vol.34

· 医師インタビュー
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産科クリニックから不妊治療・婦人科のクリニックへ

―医師を志したきっかけと、産婦人科を選ばれた理由を教えてください。

 父が産婦人科を開業していましたので、自分も医師の道を志しました。弁護士、作家、商社マンなどにも憧れましたが、最終的には医学部に進みました。産科の仕事を間近で見てきましたので、大変な仕事であることはよく理解していましたが、外科と内科の両方をできるというところに魅力を感じて産婦人科を選びました。

 

―生殖医療を始められるまでは、どのような経緯があったのでしょうか。

 産婦人科の中で周産期や婦人科がんなど一通りの経験を積んだのち、不妊症グループに配属されたのが生殖医療との最初の出会いでした。当時は診療ではなく、研究を主に行っていました。その後、父が高齢になったのを機に、大学病院を離れ、クリニックを継ぐことになりました。

 もともとは分娩を専門とする産科クリニックでしたが、生殖医療にも興味があり、並行して始めることになりました。医師が私一人のクリニックでしたので、チーム医療が求められる周産期よりも、生殖医療のほうが向いていたこともあって、徐々に生殖医療の方へシフトしていきました。現在は、不妊治療と婦人科のクリニックとして変遷を遂げています。


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技術の進歩が著しい生殖医療に魅力

―生殖医療のどのようなところに魅力を感じられたのですか?

 生殖医療を始めてから20年近く経ちますが、当初はまだ新しい学問で、特に体外受精は歴史が浅く、さまざまな技術が目覚ましく進歩しているときでした。凍結法も誘発法も新しいものが出てきて、世界中からたくさんの論文が発表されていました。国内で体外受精を研究しているグループの勉強会が頻繁に行われ、新しい治療法について皆で議論を交わすことよくもありました。

 そのころは保険診療がありませんでしたので、論文の中からエビデンスがありリスクが低いと考えられる最新の治療法を積極的に取り入れることができました。こうしたことがすべて魅力であり、私が生殖医療にのめり込んだ理由です。

 

「患者さん=家族」の気持ちを大切にし、女性の一生をサポート

―いがらしクリニック様では「医は仁愛なり」を理念とされていますね。ここには、どのような思いが込められているのでしょうか。

 当院では、女性の一生をトータルでサポートしたいという思いから、婦人科の一般診療も継続して行っています。不妊治療についても、中には生殖補助医療のみを実施しているクリニックもありますが、当院では患者さんに安全でなるべく無理のない治療を受けていただくために、一般不妊治療からステップアップをしていく方法を基本としています。

 

―先生が診療の中で心がけていることはありますか?

 自分の家族や大切な人がいちばん満足できる治療は何かを考えながら、患者さんにとって最善の治療を行うことを心がけています。ただ、患者さんによって考え方はさまざまですので、一方的に意見を押しつけることはせず、患者さんが納得されていることを確認してから治療を進めるようにしています。

 

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安全性と患者さんの希望を考慮しながら治療法を選択

―体外受精についてお伺いします。治療法を提案される際は、何を考慮して行われているのでしょうか。

 よい卵をたくさん採ることが近道ではありますが、卵胞がたくさん育ち過ぎてしまっても、卵巣が腫れてしまう卵巣過剰刺激症候群(OHSS)を起こしてしまわないように、リスクを考慮しながら刺激方法や投与量を調整しています。スケジュールどおりに来院が難しい患者さんもいらっしゃいますので、患者さんが何を望んでいるのかを確認しながら、妥協点を見つけるようにしています。

 

―不妊治療に携われる中で、難しさや苦しさを感じるのはどのようなときですか?

 仕事で忙しいときに時間を作って通院していただいたり、ご自宅でも自己注射を頻回に打っていただいたり、また保険診療では治療が難しく自費で治療する患者さんの経済的負担が大きくなってしまうところも心苦しく思うことです。技術的なところでは、排卵誘発法や薬の投与量を決定し、卵胞の発育状態を知るために超音波やホルモン値を計測しますが、必ずしも教科書やマニュアルどおりではないことがあり、それに対してどう対処していくかが難しいところであり、経験を要するところだと感じています。

 

―これまでのご経験の中で、印象に残っているエピソードはありますか?

 印象に残っていることはたくさんありますが、採卵を何十回も行い、長い期間通院いただいて患者さんが妊娠できたときは、諦めずに治療を続けられて本当によかったと思いました。そういうときは、患者さんを尊敬する気持ちでいっぱいになります。

 

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保険適用により男性の不妊治療への理解が深まり、女性の精神面の負担が軽減

―保険適用後、男性も治療計画から参加が必須になりましたが、変化を感じられることはありますか?
 保険適用前は男性が一緒に通院することがほとんどありませんでしたので、大きな変化がありました。保険適用になってからは、初回はもちろん、治療中の通院も男性が一緒に来るのが当たり前になり、女性の精神的な負担がだいぶ和らいだのではないかと思います。診察に同席いただくことで、治療内容についての理解が深まり、治療がスムーズにいかないときも、以前と比べてサポートをしていただけるようになった印象です。

 

―いがらしクリニック様に通院されている患者さんは、周辺の方が中心なのでしょうか?

 当院のある龍ヶ崎市内と周辺の稲敷、牛久、阿見、つくば辺りにお住まいの方が中心ですが、海側に向かって不妊治療のクリニックが少ないため、沿岸の鹿島、神栖からや石岡、水戸から通われている患者さんもいます。県外からも、茨城寄りの千葉県の県北や県西から通院されている方もいらっしゃいます。

 

―患者さんへメッセージをお願いします。

 不妊治療は、仕事や家事との両立や通院の負担、治療による体の負担、治療費の負担などから、ストレスがとても大きなものだと思います。すぐに妊娠する方もいますが、なかなか妊娠しない方もたくさんいます。ただ、当院では最終的には10人中9人は妊娠して卒業されていると思います。可能性があるのに途中で諦めてしまうのは残念に思います。当院では、負担が少ない治療で、安全に長引かずに妊娠できるように努力をしていますので、幸せに向かって一緒にがんばりましょう

 

―患者さんの体のことを大事に考えられているからこそ、現在の治療方針や診療スタイルになっているということがよく分かりました。これからも地域の方から愛される存在であってほしいと思います。本日は、ありがとうございました。