【茨城県】つくばARTクリニック 胚培養士&看護師インタビュー vol.7

· 胚培養士インタビュー

 

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今回は、茨城県のつくばARTクリニックで働かれている胚培養士の大木知美さんと、看護師の大塚馨様さんにインタビューをさせていただきました。それぞれのお仕事内容や施設の特徴をお話しいただきました。

臨床検査技師から努力ありきの胚培養士の道へ

―大木様が医療関係のお仕事に携わるようになったきっかけを教えてください。

大木 幼いころ、親戚が入院したときに医師が検査結果を見せてくれたのですが、それらの数値にどういう意味があるのかが分からなくて悔しい思いをしました。臨床検査技師になれば、そういった検査結果の見方が分かるようになると思い、技師を目指しました。

 

―臨床検査技師を目指され、そこからなぜ胚培養士になろうと思われたのですか?

大木 臨床検査にはたくさんの検査機器がありますが、こうした検査はどの技師であっても一律に同じ結果が出ます。でも将来、現場で働く時には、自分で努力をして、技術を身に付けられるような仕事をしたいと思うようになりました。そうしたとき、生殖医療に進まれた先輩から、臨床検査技師が胚培養士になることができるということを聞きました。私が胚培養士に向いているとの助言もいただき、胚培養士の道に進むことを決めました。

 

―高い技術が必要な胚培養士の技術を習得するために、相当な努力をされたのですね。

大木 私が胚培養士になろうと思ったときは、まだ知っている人が少ない職種でしたし、今とは勉強する環境がまったく異なりました。練習は仕事の合間にも少しはできましたが、だいたいは業務が終了してから練習を始めることが多く、本当に自分の努力次第なのだと思いましたね。

 患者さんの思いを考えれば努力をしなければならないと思いましたし、生命の誕生にかかわるという点では怖さもありました。臨床検査技師の学校では、胚培養については学ぶ機会がなかったため、日中培養室業務をしながら、専門的に胚培養について学ぶべく、夜間に学校に通う生活もしていました。

 

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がん患者さんの生殖医療に興味を持ち、不妊専門クリニックへ

―大塚様が看護師を目指され、生殖医療に携わるようになったきっかけを教えてください。

大塚 母が看護師をしていたので、子供のころから看護師になりたいと思っていました。高校を卒業したあと、看護専門学校に通って看護師の資格を取りました。もともとは第一希望が精神科、第二希望が消化器外科だったのですが、どちらも人気のある病棟で入ることができず、第三希望の産婦人科に就職することになったのです。そこで、がん患者さんの生殖医療に関わりたいと思ったのが最初のきっかけです。

 

つくばARTクリニックに就職された経緯を教えてください。

大塚 以前に働いていた筑波大学では、産婦人科のほかに乳腺外科や泌尿器科にもまたがって働いていました。そこでは若い乳がんの患者さんや精巣腫瘍の男性患者さんで治療を終えたあと、結婚や妊娠・出産を目指される方がいらっしゃいました。

 そこからがん患者さんの生殖医療に携わりたいと考えるようになり、不妊カウンセラーの資格を取るための勉強をはじめました。ただ、その当時は大学病院ではそういったがん患者さんが相談できる不妊カウンセリングがなかったため、同じつくば市にある不妊専門のつくばARTクリニックに就職することになりました。

 

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安心して治療を受けられる環境をつくる看護師・治療を裏で支える胚培養士

―看護師は主にどのようなお仕事をされているのでしょうか。

大塚 診察室の当番の日は、先生の内診の介助につきながら、通院のスケジュールの調整を行います。体外受精の患者さんであれば、自己注射のスケジュールを患者さんにお伝えすることが重要な役割になってきます。採卵当番のときは、病室に患者さんをご案内し、麻酔のための点滴を入れる間などに声がけをしながら、患者さんが緊張や不安を軽減できる環境づくりをしています。

 そのほかに、患者さんのほうから治療に関する不安や、仕事の両立で悩まれているといった相談を受け、先生に直接伝えにくいことを代わりに伝えるということもよくあります。その日の診察でモヤモヤを残さないよう、お声かけをしています。

 

―胚培養士は普段は患者さんとの接点が少ないお仕事ですが、患者さんから見えないところで、どのようなお仕事をされているのか教えてください。

大木 1日のスケジュールをお話すると、まず朝いちばんに受精確認・胚の発生状況を確認します。その後、採卵手術が始まるので、卵子を探す作業(検卵)に入ります。その後は、体外受精の精子の調整(よい精子のみを取り出すこと)が終わったら媒精や顕微授精を行ないます。他にも、培養している胚の凍結や、凍結融解胚移植で移植する胚の融解、人工授精の精子調整や精液検査、精子凍結も行っていきます。

 午後には、凍結融解胚移植や翌日の培養液の準備も行います。体外受精のため、排卵誘発をされている患者さんの状況を記録することや、採卵、凍結融解胚移植などのチャートを作成するペーパーワークも胚培養士の仕事です。これらのほかに、凍結胚の延長・破棄の管理、日本産科婦人科学会への症例登録、年1回の先進医療の実施状況の報告、カンファレンスの準備や培養成績のデータ管理、学会発表の準備も行っています。

 

―看護師は患者さんと触れ合う機会が多いからこそ、喜びや難しさを感じる部分も強いのでしょうか

大塚 やはりがんばって治療された患者さんが妊娠されたときは嬉しいですね。一方で、不妊治療は、がん治療のように先生が治療法を提示するのと違い、患者さんの意見を取り入れながら行う治療ですので、患者さんに寄り添いながら意思決定をサポートするところが難しく大事なところです。特に妊娠しなかったときに、再チャレンジをするのか、治療を終結するのか、またはステップダウンをして継続するのかといった決断に関わる部分は難しいところだと感じます。

 

―大木様が胚培養士として喜びや難しさを感じる点はどのようなところでしょうか?

大木 患者さんが送ってくれた出産報告書を見て無事に出産されたことを知ったときは、とても嬉しく思います。お手紙も同封してくださる患者さんもいらっしゃり、大切にファイリングしております。顕微授精で翌日に受精を確認する瞬間は、毎回合格発表のようで未だに緊張します。よい受精卵ができればもちろん嬉しくなりますが、不成功を繰り返している患者さんもいらっしゃいます。

 うまくいかなかったときは落ち込むだけでは終わらせずに、カンファレンスで医師、看護師、胚培養士が一緒になって、次はどういうふうに排卵誘発かけようか、先進医療をどうやって組みこんだらよいか、といった話し合いにつなげるようにしています。

 

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スタッフ同士が意見を言い合える環境だからこそ、よい治療が生まれる

―最後に、つくばARTクリニック様の特徴について教えて下さい。

大塚 当院は風通しがとてもよく、スタッフ全員の関係性がよいところが特徴です。看護師では分からない卵の状況も、培養室に行けば胚培養士がすぐに教えてくれます。

大木 胚培養士は普段は表にあまり出ることがないので、外来のことは知らないことが多いのですが、看護師さんから患者さんの状況やどういうところで悩みを抱えているのかなどを共有いただけるので、患者さんを身近に感じながら胚を扱うことができます。院長も優しい性格で、意見を言いやすい環境だからこそ、スタッフ全員でディスカッションをして、よりよい治療を目指すことができるのだと思います。

 

―患者さんに向けて、メッセージをお願いします。

大木 当院の外来は話しかけやすい看護師さんばかりなので、治療で分からないことがあればどんどん聞いてみてください。専門用語ひとつであっても、分からないことがあると、それが不安へとつながりますよね。もし体外受精のことで分からないことがあれば、体外受精コーディネーターも在席しておりますので、卵子のことから治療のことまで分かりやすく丁寧に説明させていただきます。どんなに小さなことであっても、お話してください。少しでもお気持ちが軽くなる手助けができればと思います。

大塚 分からないことや不安なことがあれば、気軽に相談に来てください。私たちは、いつでもお話を聞く準備ができています。

 

―お2人の掛け合いからも、雰囲気のよさがとてもよく伝わってきました。よい治療を行うには、職種をまたいだ連携やスタッフ間のコミュニケーションが大切ですね。仕事内容も詳しく教えていただき、ありがとうございました。