【東京都】キネマアートクリニック 医師インタビュー vol.28

· 医師インタビュー
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宇宙のビッグバンと同じ“無からの発生”に神秘と魅力

―医師の道を選択された理由・きっかけについて教えてください。

 私は子供のころから星が好きで、天文学者になりたいと思っていました。ところが、祖母が大病を患ったことがきっかけで、医療に興味をもつようになりました。最終的には、人のためになる仕事がしたいと思い、医師になる道を選びました。

 

―産婦人科を選択された理由と、その中でも生殖医療をご専門とされた理由を教えてください。

 学生のときに全科を廻った中で、唯一「おめでとうございます」と言える科であったことが、私が産婦人科を目指した原点です。卒業後、東邦大学の関連病院の婦人科を廻っていた中で、不妊治療を受けていた患者さんの出産までを見届けることができたときは、大きな喜びを感じました。
 その当時は生殖医療を実施している大学がまだ少ない時代でしたが、東邦大学の生殖医療のチームでは最先端の取り組みを行っていました。それもあり、研修医を終えて、婦人科の中で何を専門としていくかを考えたとき、いちばん興味をもてたのが生殖医療でした。

 

―生殖医療のどのようなところに魅力を感じられていますか?

 天文学でいちばん不思議なことはビッグバンだと思っていますが、人の命も同じで、「無から生まれる」ことがいちばんの不思議で、魅力的なところだと思います。特に、精子と卵子が合わさって、ひとつの細胞から人になるというところには神秘を感じますね。

 

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元祖「アートクリニック」―歴史ある映画の街で開院

―大学病院で研鑽を積まれた後、2010年に蒲田でキネマアートクリニックを開院されました。クリニック名の由来について教えてください。

 「キネマ」は「シネマ」(映画)という意味です。当院のある蒲田は昔、有名な映画の撮影場所があったことから映画の街として知られている場所で、「キネマ通り」と呼ばれる商店街があり、そこから名前をいただきました。

 今では「〇〇アートクリニック」という名前をよく見かけますが、「アートクリニック」と名付けたのは、おそらく当院がいちばん最初だと思います。開業した当時は、高度生殖補助医療を意味する「アート(ART)」という言葉は今ほど知られていませんでしたので、絵画の「art」と間違えられることもありましたね。

 

―キネマアートクリニックのコンセプトについて教えてください。

 当院では、「患者さんを自分の家族と思って接すること」をコンセプトとしています。目の前の患者さんを自分の母親、奥さん、兄弟のように思い、治療に来られるすべての方に対して、我々がもっている知識、医療、スキルを全て活用して、最大限のよい治療ができるように心がけています。そのためにも、学会や研究会に参加し、最新のトレンドに目を通して技術を高める努力も行っています。

 

よい結果を出すには、心と体の健康を保つことも大切

―生殖医療に携われていて、難しさを感じるのはどのような場面ですか?
 最近はだいぶ妊娠率が向上しましたが、生殖医療は周期あたりでは妊娠しない方のほうが多い治療です。妊娠できなかった場合に、患者さんに対してどのような対応をしていくかというところが難しいところであり、配慮が必要なところだと思います。よい結果を出すためには、心身ともに健康であることが前提になりますので、医学的な側面からのアプローチだけではなく、心のケアも重視するようにしています。

 

―患者さんの心のケアのために、どのような取り組みをされていますか?

 私自身も心理カウンセリングを学んできましたが、診療の中だけではどうしても限りがありますので、臨床心理カウンセラーによる心理カウンセリング外来を設けています。また、当院では無料の看護師外来を設けていますので、治療について迷われたときには、体外受精コーディネーターや不妊カウンセラーなどの資格をもった専門知識のある看護師と相談していただけるようになっています。

 不妊治療がなかなか上手くいかず、ストレスを抱えて悩まれている患者さんはたくさんいらっしゃると思います。ただ、普段の日常生活の中でも、夫婦関係やお仕事のことなど、ストレスというのは何かしらあるものですよね。治療によるストレスも、その一環ぐらいに収められるようにしていきたいと思っています。


 

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複数の医師に診てもらうことにより、「セカンドオピニオン」を聞けるメリット

―診療の中で、何か工夫をされていることはありますか? 

 当院は現在、私を含め常勤の医師2名と非常勤医師の複数名で診療にあたっていますが、敢えて担当制にはしていません。なかには女性の医師を希望されたり、毎回同じ医師に診てほしいという患者さんもいらっしゃいますが、複数の眼で診ることによるメリットがあると考えています。

 基本はどの医師も皆同じ方針ですが、視点が変わることによって、新しい観点が入ります。私が気づかなかったことをほかの医師が気づくこともありますし、またその逆もあると思っています。そういう意味では、院内で「セカンドオピニオン」を聞くことができるというわけです。

 

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保険適用により男性の積極性が増し、夫婦揃っての治療機会にも

―保険適用以降、男性も治療計画段階から参加することになりました。最近の男性の関わり方に変化は見られましたか?

 保険適用前は女性が一人で通われることが多かったので、ご主人さんと直接顔を合わせる機会があまりありませんでした。保険適用後は、男性が積極的に通院されるようになり、家庭でも治療についてよく話し合っているという印象を受けています。当院は、泌尿器科とも連携し、開業当初から男性不妊の外来を行ってきました。保険適用によって、ご夫婦揃っての治療をスタートしやすくなったのではないかと思います。

 

―先生のクリニックには、どのあたりのエリアから通院されている患者さんが多いのでしょうか。

 不妊治療が受けられる施設が少なかったころは日本各地から通院いただいていましたが、最近は、大田区エリアの方を中心に、品川、横浜、鶴見、川崎、大森あたりの方にお通いいただいています。蒲田駅から徒歩5~6分という比較的便利な立地にありますので、通勤途中に寄られるというケースもありますね。

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先進的な治療もすべてできて当たり前。画一的ではない患者さんに合った治療を提供

―患者さんへのメッセージをお願いします。

 当院は敢えて声高で宣伝するようなことはしていませんが、当たり前のことを当たり前にするという姿勢で、先進的な治療も含めて生殖医療としてできることはすべて行える体制を整えています。開業当初は、「フレンドリーART」「オーダーメイドART」という言葉が流行っていましたが、保険適用後はオーダーメイドの治療よりも、画一的な治療をするという流れになりつつあります。そうした中でも、できる限り患者さんに合ったオーダーメイドの治療を心がけていきたいと思っています。

 

―医療的なアプローチだけではなく、患者さんのストレスをできるだけ少なくし、心と体の健康を保つことで、よりよい結果につなげようというお考えが素敵だと思いました。無料で受けられる看護師外来もありがたいですね。本日は、ありがとうございました。