【香川県】厚仁病院 医師インタビュー vol.24

· 医師インタビュー

 

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不妊治療の最前線で生殖医療の臨床経験を積む

―産婦人科医を志したきっかけについて教えてください。

 医学部在学中に、産婦人科の医局の手伝いをさせていただいたことが最初のきっかけでした。もともと外科系に進みたいと考えていたこともあり、特に産科麻酔に興味を持ちました。もちろん、多くの産婦人科医が抱くような分娩の神々しさというのは、私にとっても大きな要素でした。

―産婦人科の中でも、生殖医療を専門にされたきっかけは?

 私が大学を卒業した1984年は、ちょうど日本で体外受精が始まった翌年のことでした。東海大学は生殖医療に力を入れていましたので、体外受精による赤ちゃんが誕生するのを目の当たりにすることができました。そういう環境にいましたので、知らず知らずのうちに、生殖医療の基礎を叩き込まれたのだと思います。ただ、当時は体外受精よりも、卵管のマイクロサージェリー(卵管の閉塞や狭窄を手術によって広げる卵管形成術)が花形分野で、先輩医師が細かい作業で卵管をつなぎ直す技術を見て感動したものです。そうした現場の雰囲気に圧倒されながら、自分自身もその道へ自然と進んでいくことになりました。


夫婦で産科と生殖医療を分担・「ありがとう」と言っていただける医療を提供したい

―生殖医療の臨床経験を積まれてから開業までの経緯について教えてください。

 私の生殖医療の基礎は東海大学時代に培われたと思っています。石川県の永遠幸マタニティクリニックでは、その後のより実践的な臨床経験を積むことができましたし、培養士の養成などについてもお願いすることができました。そこで1年6ヶ月ほど副院長として勤務させて頂いた後、厚仁病院に産婦人科を開設することができました。厚仁病院は昭和43年に義父が外科病院として開設し、地域医療を担っておりました。また特別養護老人ホームを中心とした福祉施設の運営にも携わっておりました。新たな展開として産婦人科を開設することとなり、現在に至っております。

 

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―一般の市中病院として運営される中で、どのような思いを大切にされていますか?

 先代理事長は病院の基本理念を「赤ちゃんからお年寄りまで」としました。その理念は現在も息づいております。当院に来ていただいた全ての患者様に「ここへ来てよかった」と思って帰っていただけるようにしたいと常々思っております。すべてがハッピーな結末になるわけではありませんが、「ありがとう」と言っていただけるような医療を提供していきたいと思っています。

 

―生殖医療をされていて嬉しいと思う瞬間はどのようなときですか?

 顔には出しませんが、患者様が妊娠反応を見て喜んでいるときは、こちらも嬉しくなりますね。遠方から不妊治療に通われていた患者様が地元の産科でお産をされて、赤ちゃんを連れてきてくださったり、写真を送ってくださったときは、この仕事をしていてよかったと心から思います。

 

―生殖医療で辛いこと、苦労されているところは?

 いろいろと辛いことはありますが、治療の終結をどのようにお伝えしたらよいかという事を考えなければならないことも辛いところの一つです。ガイドラインがあるわけではなく、決まった答えがあるのではありません。私が治療の終結を宣言することはできないと思っております。非常に心苦しいのですが、情報をきちんとお伝えし、ご家族でしっかりと話し合って決めていただくようにお願いをしています。患者様が納得されることがいちばん大切なことと考えております。後ろ髪を引かれながらの終結はしないほうがよいと思っております。

 

患者様、ひとり一人に必要な治療を提供する為に

―貴院で行われている不妊治療の特徴について教えてください。

 2022年4月から始まった生殖医療の保険診療化によって、患者様が生殖医療に取り組む環境に変化が有りました。当院では保険診療に加えて、タイムラプス撮像法・ヒアルロン酸を用いた精子選択術(PICSI)・子宮内膜着床能検査(ERA)・子宮内細菌叢検査(子宮内フローラ検査)・子宮内膜刺激胚移植法(SEET法)など、先進医療についても対応しております。また当院は、不妊症および不育症を対象とした着床前遺伝学的検査(PGT-A・SR)の日本産科婦人科学会認定施設として、当検査のガイドライン遵守と安全に実施ができる環境を整えております。

もう一つ、当院の特徴として男性不妊症の患者様を対象とした、泌尿器科医による男性不妊外来があります。通常の外来診察だけでなく、高度な専門性求められる精巣精子採取術や精索静脈瘤手術も行っており、高度生殖医療(ART)と男性不妊の両方に対応できることで、ご夫婦やパートナー様と一緒に受診いただける施設となっております。

 

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―香川県での不妊治療を受けられている患者様に特徴はありますか?

 他の地域の施設の患者様の状況はわかりかねますが、香川県で不妊治療を受けている患者様も他の地域の患者様と何かが違うということは無いと思っています。患者様の要望に応えられるように頑張っていくことが、私たちの務めだと思っています。

 

精子・卵子胚の凍結保存でがん患者様の将来の妊娠を応援

―県内のがん・生殖医療を担う施設として、どのような活動をされているのでしょうか?

 がん・生殖医療には、がん治療前に妊娠するために必要な能力(妊孕性)を温存するための「妊孕性温存療法」と、がん治療後の妊娠を補助するための「がん治療後の生殖医療」があります。当院は両方の認定を受けております。がん患者様は、抗がん剤治療や放射線治療を受けることによって、卵巣機能や造精機能が影響を受け、妊孕性(妊娠のしやすさ)が低下することが知られています。当院では、原疾患主治医及び患者様の要望に基づいて、がんの治療を開始する前に、精子・卵子・胚を凍結保存することで、がん患者様の将来の妊娠を応援しています。近年、こうしたがん・生殖医療は、生殖医療の中の一分野になってきています。
がん患者様は診断を受けてから治療を開始するまでの時間が限られています。そのため、がん治療病院と生殖医療を実施する施設との間で迅速に連携をとることが必要になります。妊孕性温存療法、がん治療後の生殖医療のシステムを持続的に維持していくためには、公的な機関を中心としたネットワークがあり、それらの施設と連携をとりながら当院のもネットワークの1施設としての活動をしていく形が理想だと考えています。
 

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日頃の情報収集を欠かさず、常に最先端の技術・治療法を探求

―技術の進歩が速い生殖医療の分野で、先生はどのようにキャッチアップをされているのでしょうか

 文献を読んだり、学会で発表を聞いたり、メーカーの担当者さんから話を聞いて最新の情報を収集するようにしています。そうすることで、日本の生殖医療がどこへ向かっているのかが見えてきます。日々診療をしていると、ここはもう少し何とかならないかなと思うところが出てきます。そういうことを学会場でドクターや企業に投げかけてみると、答えが返ってくることがありますし、求めていたデバイスを紹介してもらえることもあります。様々な方々とお話をさせてもらう中にヒントが隠れていることもあり、対話やディスカッションは欠かせません。いろいろな方面にアンテナを張る事により、最新の技術に追いつけるように努力をしています。

―治療を受けられている患者様、治療を検討されている方にメッセージをお願いします。

 当院はより良い医療を提供できるように、日々研鑽し、最新鋭の技術・治療法を積極的に導入しています。最終的にそれらが患者様のためになれば嬉しく思います。

 

―常に患者様のことを考えながら、人とのつながりやネットワークを生かして、新しい医療技術を探求されている姿勢がとても印象に残りました。本日は貴重なお時間をありがとうございました。