【埼玉県】泌尿器と男性不妊のクリニック 看護師インタビュー vol.4
【埼玉県】泌尿器と男性不妊のクリニック 看護師インタビュー vol.4
今回は、2022年5月にさいたま市にオープンした泌尿器と男性不妊のクリニックで、男性不妊の看護に携わる菅野伸俊さんにお話しを伺いました。
菅野さんは、日本で初めて不妊症看護認定看護師となった男性の看護師で、不妊症専門クリニックで20年以上の経験を積まれてきました。男性不妊の現状や検査の流れ、男性看護師の視点からみた看護師の役割、施設選びのポイントなどについて教えていただきました。
国内初の男性の不妊症看護認定看護師
―まず初めに、菅野様が生殖医療の領域に入ったきっかけについて教えてください。
高校生のころに入院をしたことがきっかけで医療の世界に興味を持ち、そのときに看護師になろうと決めました。生殖医療の領域に入ったのは、総合病院の手術室で看護師として働いていたとき、あるプライベートクリニックの産科で緊急の帝王切開があるということで招集がかかり、手伝いに行くようになったことが始まりでした。そのクリニックで体外受精を始めることになり、エンブリオロジスト(胚培養士)として勤めることになりました。
その後、2000年に日本で男性の精巣から精子を取り出す精巣内精子回収法(TESE)が始まったという話を聞き、もう一度看護師として、男性不妊のサポートに携わりたいと思うようになりました。こうして、日本で初めての男性の不妊症看護認定看護師となり、20年以上の経験を経て、男性不妊の専門クリニックの看護師となりました。
―男性の看護師として、どのようなサポートをしていきたいと考えられていますか?
例えば、奥さんが不妊で悩んでいると相談を受けることがあります。こういうとき、男性は問題を解決しようとして、何かと奥さんにアドバイスをして失敗してしまいます。こうした男性ならではの思考回路を理解できるからこそ、共感もでき、適切なアドバイスができることがあると思います。
また、排卵日にかぎって性交渉ができないと悩まれている患者さんがたくさんいらっしゃいます。女性には話しづらいことも、男性だからこそ気軽に相談することができます。そういう患者さんを拾い上げて、話を聞くことも大事な役割だと思っています。
―男性不妊治療の現状について教えてください。
最近は、ブライダルチェックで来院される方が増えています。ブライダルと言うと女性のイメージのほうが強いかもしれませんが、今は男性と女性が同時進行で検査をすることも多いようです。コロナ明けで結婚相談所を使用する方が増え、そこでブライダルチェックを勧められるケースもあると聞きます。結婚を考えるにあたって、将来の家族計画について考えておくことも大切なことですね。
泌尿器科出身の生殖医療専門医がいる施設だからこそ、検査後もしっかりサポート
―具体的には、どのような流れで検査を行うのでしょうか?
当クリニックで行っている検査で、いちばん有名なのは精液検査です。これは精子の運動率を調べる検査で、例えば10個の精子のうちの3つが動いていたとしたら運動率が30%という結果になります。検査には基準値がありますが、気を付けたいことは、基準時をクリアしていれば男性側には問題がないというわけではないということです。
男性不妊は、ライフスタイル、タバコ、お酒、ストレス、肥満、加齢などが原因になって起こることがあります。こうした問題によって精子の状態が悪くなっているかどうかを調べるために、超音波検査をお勧めしています。この検査でよく見つかるのが精索静脈瘤です。これは一般的な男性でも、10~20%に見られます。静脈瘤があることによってDNAがダメージを受け、受精率や妊娠率が低下する可能性があることから、最近はこの流れでDNAの損傷率を調べる精子DNA断片化指数(DFI)検査をすることも増えてきています。
―男性不妊の検査は産婦人科でも受けられるようになっています。専門施設で検査をすることで、どのようなメリットがあるのでしょうか?
検査ができる施設はたくさんありますが、検査をして問題が見つかったにもかかわらず、治療をしてもらえないと言って来られる患者さんがたくさんいらっしゃいます。男性不妊の施設を選ぶときは、検査後のフォローをしっかりしてくれる泌尿器科出身の先生がいる不妊症専門施設を選ぶとよいでしょう。当クリニックの寺井院長は、泌尿器科出身の生殖医療専門医ですので、不妊症にとどまらず、泌尿器と生殖器全般の治療を行うことができます。
夫婦の意思決定の課程を大事にしたい
―男性不妊の専門施設として、どのような医療を提供していきたいと考えられていますか?
例えば、顕微鏡下精巣内精子回収法(MD-TESE)を行ったとき、精子がいる場合といない場合があります。非閉塞性無精子症でMD-TESEをおこない精子が見つかる確率は3~4割と言われています。残りの半分以上は見つけることができません。そこには医療の限界があるわけですが、患者さんたちはそれでも生活をしていかなければなりません。そこで精子がいなかったという事実だけを患者さんに突き付けるのではなく、今後どうしていくのか2人で話し合ってもらうための情報を提供し結論に至るまでの過程を大事にしていきたいと考えています。
生殖医療のプロである寺井院長がきちんと納得のできる説明をし、看護師である私はカウンセリングを通して、目の前の選択肢についてご夫婦と一緒に考え、自分たちの選択がよかったと思えるようにサポートをしていきたいと思っています。まだ開院して1年のクリニックではありますが、院長と2人で力を合わせて、患者さんに来てよかったと思ってもらえるようなクリニックにしていきたいと思います。
―女性側の不妊症に対するサポートや他の生殖医療施設との連携もされているのでしょうか?
当クリニックと同じビルにウィメンズクリニックが入っていますので、そちらと連携をとらせていただいています。通常は生殖医療の施設の中で男性を診ますが、治療を始める段階で男性を紹介いただくことで、半年や1年してから実は男性側に原因が見つかったということがないようにサポートをさせていただいています。
―生殖医療の保険適用化により、男性不妊外来にも何か変化はありましたか?
女性側の裾野が広がったことで、男性側の患者さんも増えてきている印象です。スマートフォン用精子観察キット「TENGA MEN'S LOUPE(メンズルーペ)」や不妊治療の漫画が登場したりと、様々な方法で情報収集ができるようになったことも理由として考えられます。ダイバーシティが重視される時代となり、トランスジェンダーの方からの精子凍結などの相談も受けるようになりました。
ネットの情報に振り回される前に、専門のクリニックに夫婦で受診を
―最後に、患者さんに向けてメッセージをお願いします。
今はネットでいろいろなことを調べることができますが、それらの情報が正しいとは限りません。「精子の奇形率が高いと、奇形な赤ちゃんが生まれる確率が高くなる」という噂を信じて検査をしてほしいと来られる方もいます。EDの薬をネットで買うことはできても、そのあとのフォローがまったくなく、薬の正しい飲み方も知らずに効果がないと言われる方がいます。情報に振り回されたり、不確かな知識で不妊と向き合うのではなく、きちんとした専門の施設で診てもらうことをお勧めします。夫婦の間で認識にずれがあることで夫婦喧嘩に発展することもありますので、できればお2人で受診されるのがよいでしょう。
当クリニックは男性の看護師がいる珍しいクリニックです。ここへ来ることで、ご自身のもやもやしているものがなくなり、少しでも前に進んでもらえたらと思います。都内からも比較的アクセスしやすいところにありますので、ぜひ話をしに来ていただけると嬉しいです。
―男性不妊も、しっかりとした病院選びが大切だということが分かりました。男性の看護師がいることも、ひとつのポイントになりそうですね。本日は、ありがとうございました。