【兵庫県】神戸元町夢クリニック 生殖医療専門医インタビューvol.2
河内谷先生インタビューのStory
1. タイミング法、人工授精であっても血液検査に基づく治療をおこない、最大の成果を追求
2. 低刺激法の難しさは、患者さんごとに異なる排卵のタイミングを予測すること
3. 今後も世界中の患者さんの正しい理解と幅広い選択肢をサポートしたい
タイミング法、人工授精であっても血液検査に基づく治療をおこない、最大の成果を追求。不妊治療クリニックだからこその価値を提供したい 。
-先生が作成されたYouTubeチャネルの説明会動画、拝見しました
ありがとうございます。コロナ禍において採卵を一時的に停止せざるを得なかった時期があり、そのときにやれる事をやろうと、動画を作成しました(公式チャンネルはこちら)。今までは体系化した知見を患者さんに伝える機会がそれほど多くなかったので、動画をきっかけに少しでも不妊治療に対する理解を深めてもらえればと考えています。
Youtube公式チャンネルでは、クリニックの治療方針のほか、治療成績も詳細に公開されている
―先生のご施設にはどのような患者さんが多くいらっしゃいますか
様々な方がいらっしゃいます。以前より治療をされていた方は、弊院の特徴である低刺激法 (患者さんの自然の排卵周期に合わせた治療)に興味を持って、受診されるようです。西日本では低刺激の治療方法を専門とするクリニックがほとんどなく、色々な地域の方が遠方より通院してくださっています。
また、初めて不妊治療に取り組むカップルも増加傾向で、その場合、患者さんに合わせてタイミング法や人工授精も行っています。どの患者さんにも、不妊治療に取り組むからには最大限の成果を得て欲しいと考えています。そのため、タイミング法や人工授精であっても、超音波検査だけでなく血液検査も行い、ピンポイントで排卵を予測することを心掛けています。そうすることで、患者さんが高度不妊治療にステップアップする際にも、納得感を持っていただけることが多いと感じています。
多くの地域から低刺激法を求めて患者さんが来院されている
低刺激法の難しさは、患者さんごとに異なる採卵のタイミングを予測すること。 ひとりひとりの患者さんの卵巣の状態のきめ細やかな把握と、豊富な経験則が適切な判断をサポート。
―高度不妊治療について、先生のご施設では低刺激法を積極的に行われているとのことですが、もう少し詳しく教えていただけますか
比較的多くの施設で行われている高刺激法では、薬剤を用いることで卵子の発育や、排卵の抑制を行い、採卵時の卵子の質をコントロールしています。一方で、低刺激法では、薬剤の投与を最小限に抑え、患者さん本来の生理周期に合わせて治療を行います。これにより、患者さんの身体の負担を軽減し、また、卵巣機能低下を予防することも可能になります。
以前は私も、大半の他の施設と同様、高刺激法を行っていましたが、様々な症例を経験する中で、現在は低刺激法が最良の治療法であると考えています。 特に、FSH(卵胞刺激ホルモン)が高く卵胞が育たない方や、AMHがとても低いなど、卵巣機能が低下している方でも低刺激で採卵できている方がおり、低刺激法は卵巣の状態や年齢にかかわらず、幅広い患者さんにご使用いただくことができます。
―低刺激法を行う上にあたり、治療の難しさもあるのでしょうか
体外受精は、採卵のタイミングが1日ずれただけでも卵子の質が大幅に変わる世界ですから、採卵のタイミングを見極めることが必要不可欠です。ところが、低刺激法は高刺激法と異なり、卵子発育の薬剤によるコントロールを控えます。すなわち、低刺激法において排卵のタイミングを予測するためには、患者さんひとりひとりの卵巣の状態をきめ細かく把握し、経験則に基づいた判断を行う必要がありますので、難しい治療法だと言えるでしょう。
私自身も、以前は高刺激法で治療を行っておりましたので、東京で低刺激法を積極的に行っている加藤レディスクリニックに赴任したときは、今までの手法との違いに戸惑いました。当時は他の先生方の手法を理解すべく、「なぜそのようにするのか」と何度も質問を繰り返した記憶があります。今となっては、超音波検査だけでなく、血液検査の値にも大いに着目しながら、経験則に基づき必要な判断を下すことができますが、患者さんそれぞれで特徴は異なるので気は抜けません。だからこそ、毎日新しい気付きがあり、それがやりがいにも繋がっています。
最適な採卵のタイミングを見極めるのが難しい低刺激法
研修医時代に、当時の最先端の生殖医療を経験したことがきっかけで不妊治療専門医に
―先生は、高刺激法から低刺激法まで、さまざまな治療法に取り組まれていらっしゃる点が印象的です。最初から、生殖医療に興味があったのですか
そうですね、最初に生殖医療に興味を持ったのは研修医時代です。母校である山形大学医学部は、当時としては珍しく生殖医療に力を入れており、研修医の本来のカリキュラムでない生殖医療も、経験することができたのです。試行錯誤を繰り返す中で、新たな命を授かった患者さんから、喜びの声をいただいたことが何より嬉しく、その経験を経て生殖医の道を進んできました。
―当時は培養士さんもいらっしゃらなかったとか
当時は培養士という職業がありませんでした。そのため、医師が採卵から移植までの受精卵のお世話をも担っていました。金曜日に採卵した場合は土日に培養していましたね。培養していると、卵子の成長見込みや、培養液の使い方のコツなどが分かってくるんです。現在では経験出来ない体験があるからこそ、培養士を含めたスタッフ間のチームワークが大切と考えています。
今後も世界中の患者さんの正しい理解と幅広い選択肢をサポートしたい
ー今後、先生が取り組みたいと考えられている事は何でしょうか
不妊治療は国によって規制が違うので、今日の日本ではまだ受けられない先進的な治療もありますが、近い将来は治療の発展や規制の緩和により、国内でもより多くの選択肢から治療を選ぶことができる時代が来ると思っています。その中で、世界中の患者さんひとりひとりが不妊治療を主体的に考え、自身にとって一番良い決断ができるようサポートしていきたいですね。
また、より産みやすい社会が実現されるようになるとよいですね。”妊活”という言葉を聞くと、大きなことのように思えて、構えていらっしゃる若い方も多いと聞きますので、言葉の持つ影響も大きいなと思います。早期よりご自身の身体のことを正しく理解しながら、選択肢を模索していけるとより良いだろうと感じていますが、世の中には間違った情報も多く氾濫しているのも事実です。
例えば、cocoromiなどの治療アプリで、疾患に対する正しい理解が促進するコンテンツが増えると良いなと期待しています。近年は若い患者さんも増加しておりますので、弊院としても、なるべく低価格で、手軽にできる不妊治療プログラムなども今後は検討していきたいと考えています。
<cocoromi編集部より取材を終えて>
飽くなき探求心で、常に患者さんに寄り添いひとりひとりに適した治療法を模索していらっしゃると感じました。研修医の頃にはご自身で卵を培養され、また、クリニックでは高刺激法から低刺激法まで、幅広い治療をご経験されている河内谷先生。実際に経験してみることを日々積み重ねていらっしゃるその真摯な姿勢と、多様な経験則が、現在の患者さんからの多大なる信頼に結び付いているのだと感じました。
cocoromiは、不妊治療の記録、自分と似た人の治療データの閲覧、患者同士の情報交換ができるアプリです。患者さんが治療を理解して、主体的に取り組むことで後悔のない生き方へ繋がるよう今後もサポートしてまいります(cocoromiについてはこちら)。