【大阪府】IVF大阪クリニック 医師インタビュー vol.26

· 医師インタビュー

 

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諦めきれなかった医師になる夢

―初めに、医師を志した理由について教えてください。

 私の場合は、祖父が医者でした。昔は医者よりも科学者や物理学者のほうが上に見られていたので、長男の叔父だけは医師になりましたが、次男だった私の父は理工学部に進んだので直接的に影響を受ける存在が身近にいたわけではありません。
いちばんのきっかけは、中学生のときの入院経験です。入院中に検査を受けても直ぐに結果は教えてもらえませんでした。「検査結果は出てるはずなのに、なぜすぐ知らせてくれないのだろう」と素朴な疑問を感じました。この時、患者さんのことをいちばんに考える医者になりたい、という気持ちが湧き起こったのです。
医学部志望だったのですがなかなか合格できず、サラリーマンの家庭でしたから、いったんは京都府立大学農学部に入学しました。このまま将来は高校の生物の教師になるのかなと諦めかけましたが、どうしても夢を捨てきれず大学を中退し、関西医科大学に入り医師となりました。その後、京都大学産婦人科教室に入局し産婦人科医師になりました。

 

体外受精の患者さんが繋いだ縁をきっかけに、生殖医療の道へ

―なぜ産婦人科医になろうと思われたのですか?また、生殖医療の道に進まれたきっかけについても教えてください。

 大学の当直実習で病院に泊まったとき、夜中に緊急の帝王切開が行われ、赤ちゃんが産声を上げる瞬間に立ち会いました。これを見て、「なんてドラマチックだ!」と感動し、この一瞬で産婦人科に行くことを決めました
研修後の最初の赴任病院として京都府の舞鶴市民病院産婦人科に一人医長として派遣され4年間勤務しました。外来診察から病棟管理、分娩、手術まですべて一人でこなしていました。私は手先を使うことが好きだったので、手術が上手くなりたいと考え、独学で技術を磨きました。卵管が詰まって妊娠できない患者さんにはマイクロサージェリーという卵管を繋ぐ手術を行っていました。

そのようなとき、子宮外妊娠で両側卵管がないという患者さんが受診されました。ちょうど日本で初めての体外受精が始まったころで、この患者さんは体外受精の適応だと思いました。そこで、日本で二番目に体外受精に成功された徳島大学の森崇英教授に連絡をとり、この患者さんの体外受精をお願いしました。この患者さんが日本で6番目の体外受精成功例となりました。

実は、このときの森崇英教授が、後に私が京大大学院に入学した時の指導教授なりました。こうしたご縁で森先生の研究室に入り生殖医療を専門とすることになりました。

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自分の家族であっても「ここしかない」と言える医療機関に

―診療や治療の中で、先生が心がけていることを教えてください。また、先生のお名前から名付けられたという『Aisakuism』とは、どのようなものなのでしょうか?

 最初にお話した中学生のころの思いは医師になった今でも変わることがなく、患者さんのことをいちばんに考えた医療を提供するように心がけています。検査結果はなるべく早くお伝えするようにしています。例えば、血液検査をして10種類の結果が揃ったところで話をする予定となっていても、患者さんが別の理由で早めに診察に来られれば、10個のうち4個の結果しか出てなくても、その時点で分かっているものだけ先にお知らせします。患者様は一刻でも早く結果を知りたいのですから。

痛みの少ない医療も、当院の特徴の1つです。患者さんがなるべく痛い思いをしないように、麻酔は十分にかけるなど、治療や処置を工夫しています心の痛みも同じことだと考えています。

私が舞鶴市民病院に勤めていたとき、その病院で妻が2人目の子供を出産しました。そのとき私は妻に「ここより良い出産施設がほかにあると思う?」と聞きました。夫婦二人で「ここしかないね」と決めました。このように自分の家族が治療を受けることを考えたとき、自信をもって「ここしかない」と言える医療機関にしなければいけないというのが私の信念です。こうした私の患者第一主義の考えを、看護部が『Aisaku ism』と呼ぶようになりました。当院では、医師も、看護師も、他のスタッフも皆、この信念を大切にしています。

 

生殖医療の4つの基本ができていれば、95%が妊娠できる

―最新の医療やトレンドについて、先生のお考えを聞かせてください。

 生殖医療の基本は、卵巣刺激、採卵、培養、胚移植の4つです。最近、新しい検査法がどんどん出てきて、うまくいかなければすぐに検査、検査、検査と検査漬けになる傾向があります。わたしは、上に書いた4つの基本が100%実施されていれば95%の人が妊娠できると確信しています。ですから、今までの治療を丁寧に検証することが、検査以前に大切だと考えています。
筋腫や子宮の形態異常がある場合は、外科的な処置で改善できることがありますので、子宮の状態を正確に評価することも重要です。
そのほかに原因があると考えられる場合には、着床前検査(PGT-A)を受けるのが良いと思います。着床障害の検査には、子宮内の炎症を調べる検査や着床の窓を調べる検査などたくさんありますが、PGT-Aが唯一信頼できる検査だと思っています。PGT-Aが先進医療B(未承認の医療技術を用いた先進医療)として認められましたので、保険診療との併用が可能になりました。ただし、現在のところ日本で可能なのは(2023年10月時点)大阪大学グループの4施設(IVF大阪クリニックもその一つです)のみとなっています。

 

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早い段階から卵子提供・養子縁組の情報を提供することで、冷静な判断ができるように

―IVF大阪クリニック様では生殖医療だけでなく、一般不妊にも力を入れていると聞きました。そこに対する先生の思いを聞かせてください。

 基本方針は、系統的検査に基づき、最初は自然妊娠を試み、より簡単な治療から始め成功しなければ体外受精に、というシンプルなものです。ですから、女性の不妊原因として一番多い卵管通過障害に対して、日本で初めて外来手術としての卵管鏡下卵管形成術を2000年から始めました。このようにシンプルで肉体的、経済的に負担の軽いものから、必要があれば良質の体外受精を提供します。もちろん、健康保険の範囲ですべてを行います。

生殖医療全般について、生殖医療とは女性の生涯をトータルに考えて行うものでなければならないと私は考えています。決して25~40歳といった一部の年齢の方だけを治療すればよいものだとは思っていません。日本で生殖医療を受ける患者さんは、3分1ぐらいが周閉経期(40歳から45歳)にある女性です。そうなると、閉経後のことも考える必要が出てきます。早発閉経の患者様では何もしなければ35歳で閉経になることもありますので、ホルモン補充療法が必要になります。
実際に、当院の外来には更年期の治療で60歳ぐらいの患者さんまで通院しています。出産の予定がなくても、筋腫の治療で来られる方もいます。もちろん、年齢が高くなった患者さまには、通院の便を考えて近所の産婦人科を紹介させていただくようにしています。

また、当院では40歳前後の方を対象とした卵子提供や養子縁組について情報提供を行う患者会を開いています。こういう話をすると、ほとんどの患者さんは聞かれた直後は「そんなことは考えていない」と拒否反応を示されます。当然だと思います。だからこそ、このような情報提供を早めに始める必要があるのです。

私の婦人科医療の経験からきているのですが。癌が見つかったとき、初めは「治療はしません」と言っても、1週間経つと「何の検査をしたらよいですか?」 、2週間経つと「どういう治療をすればよいですか?」と質問するようになります。時間とともに冷静に考えられるようになるのです。

あらかじめこうした選択肢について耳に入れておくことで、考える時間をもつことができ、必要になった時期に夫婦で冷静な判断をすることができるようになります。あとになって「そんなこと聞いてなかった」「考えもしかなった」という後悔をしないために、不妊治療中の早い段階で先の情報を提供するようにしています。

 

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―患者さんにメッセージをお願いします。

生殖医療は女性への負担が大きく、精神的にも肉体的にも辛いときがあると思いますが、諦めずに前向きに治療を続けてください。きっとよいことがあると思います。あなたの主治医を信頼して治療を受けてください。医者は信頼されればされるほど責任の重さを感じ、最善を尽くそうとするものです。現在の医療技術を以って最善を尽くせば、ほとんどの場合は結果が出るはずです。もちろん、期待した結果でないこともありますが、納得できる結果が出ると思っています。

 

―患者さんを自分の家族だと思って最善の医療を提供しようという『Aisaku ism』の考え方がとても素敵ですね。患者さんのことを家族だと思うからこそ、本当に信頼できる医療や大切な情報の提供につながるのだと感じました。本日は、貴重なお話をありがとうございました。