【東京都・茨城県】木場公園クリニック 医師インタビュー vol.35

· 医師インタビュー

 

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※本インタビューは2023年6月に実施しております

 

日々進化する生殖補助医療

―先生が産婦人科医を選ばれたきっかけ、さらに生殖医療に進まれた理由を教えてください。

 学生のときに実習で分娩に立ち合い、産婦人科医になろうと思いました。最初から生殖医療の専門医を目指して産婦人科医になったわけではありません。愛媛大学を卒業してから東京警察病院の産婦人科に就職し、5年後に日本産科婦人科学会の専門医を取得しました。

 ドクターになって8年目ぐらいのとき、たまたま池下レディースチャイルドクリニックで勤務していた際に東大の講師の先生とお話をする機会があり、体外受精の話を聞きました。これをきっかけに初めて体外受精を見ることになり、そこから生殖補助医療(ART)の道にのめり込んでいくことになりました。

 

―先生が生殖医療に魅力を感じたのは、どのようなところですか?
 それは発展している領域だったことですね。アクティブに取り組んでいれば、それだけ多くの命の誕生に携わることができます。よいことばかりではありませんし、厳しい仕事ではありますが、どんどん進化していく領域だと思っています。

 

 よくARTは生き物だと言われますが、開業してからのこの24年間でも大きく変わりました。当初はタイムラプスもありませんでしたし、培養液もかなり改良されてきました。昔はできなかったことが、今では当たり前のようにできるようになっています。もちろん、時代の流れについていくためには、医師の技術やクリニックの努力も大変必要になります。



女性不妊・男性不妊の診察と治療を同時に行える強み

―「一人の医師が女性不妊と男性不妊を診ることができる」というコンセプトは、どのようなところから生まれたのでしょうか?

 体外受精の経験をある程度積んだ後に感じたことが、男性側の顔が見えないということでした。それまでは、男性不妊症と言えば、泌尿器科の中で扱われるものでした。そこで、恩人の医師からの紹介で、東邦大学医療センター大森病院の泌尿器科の研修に参加し、その後、教授からの勧めで学位を取るために大学に通うことになり、男性不妊症と染色体異常の勉強をして医学博士を取得しました。

 こうして、37歳のときに女性不妊と男性不妊の診察と治療を同時に行えることをコンセプトとした木場公園クリニックをオープンしました。不妊症の原因は、女性のみが41%、男性のみが24%、男女の両方にある場合が24%と言われています。つまり、男女ともに不妊症の原因があるご夫婦が4組に1組いるということです。男女が一緒に治療を行えることは、患者さんにとって大きなメリットがあると思います。

 

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(綺麗で洗練された雰囲気の木場公園クリニック 受付)

―体外受精の保険適用によって、変わったことはありますか?
 これまでは治療歴が長く、難しい患者さんが多いクリニックでしたが、保険適用後は治療が初めての患者さんがたくさん来るようになりました。平均年齢も40歳ぐらいでしたが、今は20代で受診される方も増えていますし、そういう意味では保険適用は素晴らしい得策だと思います。

 保険適用によって治療の選択肢が狭くなったからと言って、妊娠率が下がるとは思っていません。保険診療では胚移植の回数が40歳未満の患者さんで6回、40歳以上は3回までになりますので、胚移植の回数を考えながら治療方針を立てることが重要になります。

 

 どの程度の卵巣刺激を行うのか、年齢も考慮しながら患者さんごとにプランを練って提供するようにしています。これからは限られた範囲内で、いかによい成績を出していけるかが勝負だと思っています。

 

着床前遺伝学的検査後の遺伝カウンセリングまでしっかりフォロー

―最初から自費診療を選択される患者さんは少ないのでしょうか?
 そのようなことはありません。例えば、受精卵の染色体異常を調べる着床前遺伝学的検査(PGT-A)は、今のところ(2022年1月現在)先進医療として認められていませんので、PGT-Aを希望される患者さんは、初めから自費診療で行うことになります。

 PGT-Aは胚移植をしても2回以上妊娠が成立しない人、2回以上流産を繰り返している方を対象に、ガイドラインに沿って実施しています。PGT-Aは外注に頼られているクリニックもたくさんありますが、当クリニックでは、遺伝子の解析から遺伝カウンセリングまで、すべてクリニックの中で完結させることにこだわりをもってやっています。

 私は臨床遺伝専門医の資格をもっていますので、最終診断も、検査後の患者さんへの説明も行えます。検査やカウンセリングの記録を残していくことで、データを蓄積し、その後の治療にもつなげることができるようになります。

 

―妊娠率を上げるための秘訣があればおしえてください。

 ひとつひとつ詰めていった結果、妊娠率が上がったのだと思います。施設によって違いがあるのですか?と聞かれることがありますが、大きな違いがありますね。ハード面もソフト面もそうですし、経験も違います。

 この24年間で、採卵1万9,000件、胚移植2万件、精巣内精子採取術1,000件を超える経験を積んできましたが、それ以上に、私は患者さんから教わっていると思っています。あのときにこうしたから結果が出たという経験が残っていることで、同じようなタイプの患者さんが来たときに、よりよい形で医療を提供することができます。


―患者さんの中には、ご自身でかなり勉強をされている方もいらっしゃいますが、先生は患者さんがどこまで知識を身に付けるべきだと思いますか?

 全部を知らなければならないということはないと思います。ネット検索をしすぎてしまっても、ストレスになってよくありません。2年前に体外受精の動画を作ってYouTubeで配信していますので、そういったもので、アウトラインを学ぶぐらいでいいのではないでしょうか。

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子連れ不妊・二人目不妊との動線を分け、患者さんが来やすい雰囲気づくり

―男性側に意識が足りないと感じることはありますか?

 そういうことは一切ありません。保険適用では夫婦同席のもとで治療計画を立てることと決まっていますので、必ず一緒に来てくれますし、夫婦の顔を見ながら治療を進められるようになりました。男性がたくさんいるから、来やすいというのもあるのでしょうね。

 特に、当クリニックでは、動線を分けることを意識しています。東京はビルの中にあるので、一人目不妊・男性不妊と、子連れ不妊や二人目不妊のフロアを分けていますし、つくばのクリニックでは駐車場の入り口から分けるようにしています。

 

―つくば木場公園クリニックについても教えてください。こちらのクリニックは、どのようなコンセプトで設計されたのでしょうか?

 2019年に新しくオープンしたつくばのクリニックは、「ARTリゾート構想」をコンセプトとして設計しました。外観はサンフランシスコ近郊にあるワインで有名なナパバレーをイメージし、その中にシリコンバレーの最先端のクリニックがあるというイメージです。リゾートにいる感覚で、治療にお通いいただけます。

 

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(つくば木場公園クリニック「ART RESORT TSUKUBA KIBACLINIC」(茨城県つくば市))

 

―患者さんと接するときに心がけていることをおしえてください。

 いつでも患者さんと同じ目線で治療をすることを大切にしています。初診の患者さんは緊迫感がある中で来られていますので、患者さんのタイプを読み取りながら、丁寧に時間をかけてお話するようにしています。医師として技術や知識があるのは当たり前。人としてどうあるべきかを考えるようにとスタッフにも話しています。

 

―患者さんからしても、そのようにお話してもらえるのは安心しますね。本日は、素晴らしお話を聞かせていただき、ありがとうございました。