【愛知県】まるたARTクリニック 医師インタビュー vol.32
【愛知県】まるたARTクリニック 医師インタビュー vol.32
命を救う医師から、妊娠へ導く医師の道へ
―医師を志した理由・きっかけについて教えてください。
私はもともと工学部出身で別の道を歩んでいましたが、父が心筋梗塞で急逝したことがきっかけとなり、医学部に入り直して医師になろうと考えました。心臓外科や循環器内科のドクターになって、父と同じように突然命を落としてしまうような人をなくしたいと思いました。
―そこからなぜ生殖医療を選ばれたのですか?
医学部に進学して5・6年で研修が始まり、いろいろな科を回ることになりました。最初は、産婦人科は私の選択肢からもっとも遠いところにありました。ところが、実際に産婦人科に行き、分娩に立ち会って新しい命が生まれてくる素晴らしさを肌で感じたとき、「自分が進む道はここしかない」という気持ちが沸き起こりました。このときの大きな心の変化が、今の仕事のベースになっています。
総合病院や大学病院に勤めているときは大きな病気をかかえている方が多く、生死と向き合うことが少なくありませんでした。産婦人科にももちろん大きな病気をかかえている方はいますが、ほかの診療科とは異なり、新しい命が誕生することにフォーカスを絞っている産婦人科には、光が射しているように見えました。
しばらく赤ちゃんを取り上げる産科医とし日々新しい命の誕生に立ち合い、充実していましたが、その中で授かりたくても授かれないご夫婦に幾度となく出会いました。
新しい命が生まれる素晴らしさを目の当たりにし、子供を授かるのが難しいカップルを手助けしたいと思うようになりました。その想いが今の生殖医療へ導いてくれたのです。
独自性の高い、よりよい治療環境を実践するためにクリニックを開業
―2020年に、まるたARTクリニックを開業されました。そのときはどのような思いがあったのでしょうか。
勤務医は、勉強しながら診療できることや、ほかの先生の意見を聞けるというメリットがありますが、独自性を出しにくいという面があります。だんだんと、もっと利便性の高い治療をしたい、こうしたらもっと患者さまに喜んでもらえるのではないかと感じるようになりました。自分がよいと信じた環境を実践したいと考え、クリニックを開業することを決めました。
―生殖医療の魅力は、どのようなところにあると感じられていますか?
患者さまによって思いは違っても、皆さんは赤ちゃんがほしいと思ってここへ来られます。ご夫婦の人生がかかっている大事なことを一緒に取り組めるところがやりがいを感じるところであり、責任を感じるところです。
―これまでに特に印象的だった患者さまとのエピソードはありますか?
すぐに妊娠できる方もいますが、治療が長引いてしまうこともしばしばです。採卵も移植もかなりの回数を行った末に初めてお子さんを授かったときの患者さまの顔がたくさん浮かびます。1年間卵を採り続けた患者さまもいらっしゃいます。こうした大変な治療を受け入れていただいて、その末に結果が出たときの喜んでいる患者さまの顔をすべて覚えています。
時代とともに変わる患者さまのニーズに合わせた治療法を提案
医学には科学的な妥当性が求められるのは当然のことですが、時代とともに患者さまが求めるものは変わってきます。最終的なゴールが妊娠であることは変わらなくても、そこに至るまでの患者さまのニーズは違います。それに応じて、診療も医療機器も変えていく必要があると考えています。ご夫婦の考えをよくお聞きしたうえで、ベストな治療法をご提案するようにしています。
―患者さまの思いはどのように変わりましたか?
最近では保険適用によって患者さまが若年化したことで、費用面を気にされる方が以前よりも増え、時間や仕事を大切にしたいという思いも強くなりました。そういう患者さまの思いに寄り添い、ニーズに応えていくことがクリニックとしての役割・使命だと考えています。
卵巣機能が低下した患者さまに、短期間で結果を出す「定額制プラン」を提供
保険適用後に若年層の患者さまが増えたのは全国的な傾向と同じですが、当院には治療に行き詰った方や、卵巣機能が低下して治療がスムーズに進んでいない患者さまが多くいらっしゃいます。そのため、保険診療の回数制限を超えた方が比較的多くなっています。
―先生が目指している理想の不妊治療とは、どのようにお考えですか?
当院では、基本的には半年以内の妊娠を目指しています。結婚をするとき、将来家を建てたり、マンションを買ったりというのは想定の中にあったとしても、最初から不妊治療をしようと思っているカップルはいないでしょう。人生設計にないものだからこそ、短期間でなるべくお金をかけずに治療をすることを重視しています。当院では、卵巣機能が低下して1回あたりの採卵数があまり多く見込めず、治療期間が長くなる傾向のある患者さまを対象として、3か月間で連続採卵を行う「定額制プラン」を導入しています。月に3~4回を目標として、なるべく多くの採卵を目指します。単純計算で、3分の1~4分の1の時間で同じ治療ができることになりますので、長期的な通院を考えると、患者さまの肉体的・精神的負担も軽減できる可能性があると考えています。
患者さまとの信頼関係を築き、その気持ちに精一杯応えて結果を出す
やはり患者さまの数だけ思いがありますので、それらすべてに応えていくのは簡単なことではありません。短期間で結果を出すための治療を進めるうえで、時には厳しいことを患者さまに言わなければならないことがあります。そのときに信頼関係を構築できていなければ、信頼を失うことにもつながります。まずは患者さまに信頼してもらい、その気持ちに精一杯応えるということを大事にしています。もちろん状況によって難しいときもありますが、がんばった先には結果が出るということをきちんと伝えていきたいと思っています。
―患者さまへメッセージをお願いします。
私たちは、治療をするからには必ず妊娠してほしいと思っています。20代と40代では妊娠できる確率は違いますが、そこをどうカバーできるかが当院にかかっています。ドクターによって考え方はさまざまで、45歳の初診の方が来られたときに、「難しいので治療はしません」という答えも、患者さまのことを考えての発言だと思います。ただ、最終的には患者さまご自身が決めることが大切です。諦めずに治療を続ける気持ちがあれば、治療の先に妊娠できる方はもちろんいます。患者さまが納得するまで、一緒に治療に取り組んでいきたいと思います。
たくさんのクリニックがある中で、当院を選んでいただけることはとてもありがたいことです。選んでいただいたからには、患者さまの期待を裏切らないよう、きちんと結果を出したいと思っています。
―先生の熱い思いと患者さまに寄り添う姿勢がとてもよく伝わりました。本日は、ありがとうございました。