【福岡県】アイブイエフ詠田クリニック 医師インタビュー vol.31

· 医師インタビュー
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最近、「社会的卵子凍結」という言葉を耳にする機会が増えました。自治体での助成が始まったり、福利厚生として卵子凍結をサポートしている企業も増えてきました。「もしかしたら自分も適用になるのでは?」と考えられている女性も多いのではないでしょうか。今回は、福岡県にあるアイブイエフ詠田クリニックの詠田真由先生に、社会的卵子凍結とご施設での取り組みについて教えていただきました。

 

キャリアアップと出産の両方を実現できるのが卵子凍結

―アイブイエフ詠田クリニック様で、社会的卵子凍結を始められた理由を教えてください。

 この10数年で、女性のライフスタイルが急速に変わってきました。女性の社会進出の機会が増えたことで、キャリアアップの時期と妊娠・出産に適した時期が重なってしまうことで悩まれている方がたくさんいると思います。そのようなとき、どちらかをあきらめるのではなく、両方を選択できるようにしたいという思いから、社会的卵子凍結の適応を開始しました。

 当院では、社会的卵子凍結を始める前から、がん患者さんを対象とした卵子凍結(医学的卵子凍結)を行ってきました。その患者さんが実際に凍結した卵子を使って妊娠に成功し、無事に出産されたのを見届けることができました。その経験から、技術としても広く安心して提供できる段階にあると考えました。

―詠田先生ご自身の社会的卵子凍結にかける特別な思いはありますか?

 私は工学部を卒業してから医師を目指したので、人生を遠回りした人間です。そのため、将来に備えて20代後半で卵子を凍結保存しました。それによって、多少出産が遅れても若いときの卵があるから大丈夫という余裕が出て、安心感をもつことができました。この自分自身の体験をもとに、卵子凍結がどういうものかを患者さんにご案内しています。

 

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安全面を考慮し、心身ともに健康な39歳までの女性を対象

―卵子凍結の対象となるのは、どのような方ですか?受けられる際の手続きと費用についても教えてください。

 対象となるのは、39歳までの心身ともに健康な女性です。BMI値が30を超えている方、高血圧や糖尿病、精神疾患などの既往がある方には、安全面を考慮してお勧めしていません。卵子凍結を希望される場合は、まずはお電話で予約をお願いしています。事前に卵子凍結についての動画をご覧いただき、よく理解をいただいたうえで治療を進めるようにしています。

 卵子凍結保存にかかる費用は、排卵誘発の薬の種類によって前後しますが、約253,000~297,000円です。実際に凍結した卵子を使って胚移植までを行うと、約473,000~517,000円になります。1年ごとの凍結延長料が44,000円で、半永久的に保存が可能です。

 

卵子凍結にはリスクもあり、検査で婦人科疾患が見つかることも

―卵子凍結の治療の流れとリスクについて教えて下さい。

まずは問診で健康状態を確認します。生理が始まって3日ぐらいのところで来院いただき、排卵誘発剤を使用して卵巣刺激を行います。採卵までの2回の来院で卵の発育状態を確認し、生理が始まって2週間ごろに採卵し、回収できた卵子を凍結して保存します。

 リスクに関しては、卵巣刺激のお薬でアレルギーが出ることがあります。いちばん深刻なのは卵巣過剰刺激症候群(OHSS)です。採卵後にホルモンが過剰分泌されることにより、卵巣が腫れて腹水が溜まることがあり、不妊治療をされている方ではときどき起こることがありますが、社会的卵子凍結では職場に伝えずに治療を受けられている方が多いので、お仕事をお休みされて入院となってしまうと影響がより大きいのではないかと思います。なるべくそうならないように、当院ではしっかりと管理を行っています。そのほかに出血や感染といったリスクもありますが、お帰りになる際に止血を確認し、抗菌薬を服用いただいているので、そういったトラブルはこれまでに一度も起きていません。

 そのほかの予想されるリスクは、正常な卵子が採れない場合があること、凍結した卵子を溶解した際に、死滅していたり、受精卵にならなかったり、受精卵ができてもうまく育たず、移植ができない場合があること、胚移植をしても、妊娠できない場合があることです。これらは事前にご理解いただくようにしています。

 

―卵子凍結を行う際、患者さんにとって想定外のことが起こるとすれば、どういったことがありますか?また、そのようなときは、患者さんにどのようなケアをされていますか?

 「生理がきたら約2週間で採卵」とお伝えしてスケジュールを立てますが、実際にはそのとおりに行かないことがあります。また、刺激法が体に合わないケースや、卵が1個しか採れずに2回目の採卵をするケースもあります。その分費用がかかりますし、お仕事の都合などで、いったんキャンセルをせざるを得ないということもあると思います。

 また、さらに切実なのは、ご自身の不妊の可能性を知ることになったときです。AMHを測ったら実年齢と卵巣年齢に解離がある場合や、婦人科検診を受けられていない女性もたくさんいらっしゃいますので、はじめての超音波検査で子宮に筋腫などの病気が見つかることもあります。

 私自身も20歳ごろに子宮腺筋症、子宮内膜症、卵巣腫瘍などの病気がたくさん見つかり、将来子供を持てないのではないかと、とても不安になりました。そのときに自分の病気にしっかりと向き合って治療したおかげで、2人の子供を授かることができました。私自身が経験者であるからこそ、患者さんと気持ちを共有し、治療の大切さをお伝えできると思います。

 

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ご夫婦の場合は保険診療で胚凍結をするのがベスト

―ご結婚されている方やパートナーがいる場合で、社会的卵子凍結を検討するのはどのようなケースが考えられますか?

 社会的卵子凍結は、不妊治療と違って、女性が一人で決めることができるので、パートナーと相談する必要がありません。未婚の方であれば、結婚して出産するまでに時間がかかるという場合に社会的卵子凍結が選択肢となります。

 ご結婚されている場合は、特別なご事情がない限り、保険診療で胚凍結をするのがよいのではないでしょうか。例えば、男性側の精子が採れず不妊治療が必要で、待っている間に凍結しておくというのは、あるかもしれません。ご自身の年齢を鑑みて、必要な場合は卵子だけを凍結するという選択はあるでしょう。基本的には、ご夫婦の将来のことですので、おふたりでよく話し合って、入口のところから一緒に歩んでほしいと思います。

 

―不妊治療を検討されている方や治療中の方で、ご自身も社会的卵子凍結の適用になるのではないかと迷われる方もいらっしゃると思います。ご夫婦であれば、まずは保険診療での不妊治療が優先されるということが分かりました。本日は、社会的卵子凍結について詳しく教えていただき、ありがとうございました。