【茨城県】小塙医院/つくばARTクリニック

医師インタビュー vol.12

· 医師インタビュー
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生殖医療を通して、少子高齢化の社会を変えたい 

―産婦人科を選択された理由をおしえてください。 

 父が産婦人科の開業医でしたので、子供の頃から漠然と継ぐものだと考えていました。もちろんそれだけではなく、病院の実習を通して、命を産み出すことが次の社会につながっていくことにとても意義を感じました。

 特に日本は少子高齢化が進んでいますので、社会を変えていきたいという思いから、生殖医療に進むことを決意しました。不妊治療を行うことで将来の人口を増やすことができ、日本の経済成長にも良い影響をもたらすことが可能だと考えています。 ]

 

よりたくさんの子供を産めるように、1回の採卵で妊娠・出産できる確率を高める努力 

―小塙医院の治療方針、特徴についておしえてください。 

 当院では、より早く、効率よく妊娠することを目標にしていて、第2子、第3子と、何人もお子さんを生みたいという患者さんのお気持ちを大切にしています。

 施設によって指標は異なりますが、当院では1回の採卵あたりの累積妊娠率と累積出生率を意識して行っています。ですから、まずは患者様それぞれの意向や卵巣機能などを加味して必要十分な採卵数を獲得し、より質の高い胚の培養を行い、胚移植を行うことで、より多くの赤ちゃんを産めるようにすることを目指しています。

 

―小塙医院とつくばARTクリニックでは、どのようにすみ分けをされているのでしょうか? 

 特にすみ分けというものはなく、それぞれ県南と県北のほうにあり、2か所で茨城県全体をカバーできるようにしています。不妊治療における治療方針も似ていますし、職員同士でカンファレンスや院内セミナーを行うなど、密接にコミュニケーションをとり合って勉強しています。

 

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茨城県小美玉市にある小塙医院

 つくばのクリニックには大きなラボを保有していたり、キャパシティもありますので、小塙医院で採卵件数が増えてしまい、2~3か月先になってしまうような時は、つくばの方でフォローできるように連携体制をとっています。

 

 

 

保険適用で治療のステップアップしやすく・標準治療で大半が妊娠 

―保険適用が開始され、クリニックの混雑状況はいかがでしょうか? 

25~35歳の若い方を中心に、患者さんが増えています。これまで20代の患者さんはピルの処方やがん検診ぐらいでしたが、今は不妊治療目的で受診される方が増えてきている印象です。治療費が高いからタイミング法しか行わないとしていた方が、保険適用により人工授精や体外受精にステップアップしやすくなり、効率のよい医療を目指せるようになったと思います。

 

 

―保険適用により限定的な治療になると、不安の患者様もいるようですが、実際に妊娠率に影響が出ることはあるのでしょうか。 

 今年の夏までのデータになりますが、むしろ昨年よりも成績がよく、これまで自費診療でいろいろ治療されてきた方が、保険診療にしたらすぐに妊娠したということもあります。当クリニックでは標準治療で妊娠する方が大半です。

 

 せっかく保険適用という素晴らしい制度ができましたので、これを最大限に活用して妊娠することが、費用対効果が最もよい方法だと思います。それで妊娠しない方のみ、先進医療や自費診療を提供するという流れになっていくのではないでしょうか。

 

 

―保険適用になった不妊治療はこれからどう変化していくと思われますか。 

 今までは、胚移植をしても妊娠しない方に、着床不全の検査としてTRIO検査、子宮内膜炎検査、子宮内フローラ検査、PGT-Aなどの検査をよく勧めていました。ただ、保険適用によって治療がシンプルになったことで、あらためて医師は患者様個々の状態を分析して、どのように調節卵巣刺激を行い卵子を獲得するか、そして胚培養士はどのような精子選別、受精、胚培養を行うかという、日々の考察とそれを達成できる技量が最も重要であると気付かされました。

 

 当院の40歳未満の患者様の累積妊娠率は1回の胚移植では30~40%、2回で40-50%、3回で50-60%、4-5回で60-80、6回移植をすると70-90%になります。40歳以上の患者様でも6回の胚移植で約60%まで上昇します。着床不全の検査をせずとも、4-6回の移植で妊娠するのであれば、そこにお金をかける必要はなかったと思う患者さんもいたかもしれません。決して無駄ではありませんが、今までの不妊治療は過剰な医療をしていた可能性はあると思います。 

 

 これからは医療が標準化していき、治療を繰り返すことである程度の成績を出せることがより明確になってくると思います。そして、いろいろな施設で標準化するからこそ、データ解析によって、より意味のある解析結果が出てくるのではと考えています。

 

自動算出ツールで確率を確かめながら、納得して治療に臨める 

―自費診療を組み合わせてでも、早く妊娠したいという患者様もいらっしゃると思います。治療計画では、どのようなことに配慮して、患者様に説明をされているのでしょうか? 

 初回の胚移植で妊娠しなかったことで、不安に思われる患者さんが多くいらっしゃいます。当院では、具体的な数値を提示しながら、理論立てて説明することを心がけています。

 当院では、過去のデータをベースとして「体外受精における成績予測アプリ」と言って、患者さんの卵巣予備能(AMH)と年齢を入れると、妊娠率、累積出生率、流産率などを自動で算出できるツールを作成しています。

 患者様がご自分で操作したり、外来で予測結果をお見せするようにしています。当院ではこの確率で妊娠・出産が可能ですと数値を提示すると安心されますし、100%ではなくても、ある程度の目安が分かることで、50%であればやってみる価値がある、同じ治療でも繰り返せば可能性が高くなると納得いただけるようになりました。特に、患者様が治療の開始前や治療の継続に迷ったときに数字を提示することは、非常に大事なことです。

 

診察で聞き漏らしたことも、オンラインやLINEで気軽に質問できる 

―Webセミナーは、どのようなことをきっかけに始められたのですか? 

2020年の初めごろ、コロナ禍で患者さんが来られなくなる事態になり、Webを通して患者さんに向けに何か情報を発信できないかと考え、Liveセミナーを開始しました。病院では聞きにくいことや、自宅に帰ったあとに忘れてしまうことがあるということで、患者さんから要望をいただいた薬や妊活のときの食事などのコンテンツを準備し、YouTubeでも配信しています。

 

―オンライン不妊相談やLINEを始められたのも、コロナがきっかけでしょうか?  

 オンライン不妊相談システムはコロナに関係なく、2019年より開始しています。もともとは共働き世帯が増えている現状を考慮し、病院に行かずとも不妊治療に関する相談を簡単にできる場を設けたいという思いから始めた事業です。

 開始当初からある程度利用されていましたが、コロナ以降はさらに需要が伸びています。通院中の患者さんもご利用いただけますが、通院を検討されている方も対象とした相談窓口です。特に遠いところから来られる患者さんが多い中で、通院する前というのは不安に思われている方がたくさんいらっしゃると思いますので、オンラインで事前に医師と話をすることで、安心して通院していただけるのではないかと思います。

 患者さんからも、「これがあったから行こうと思った」、「悩んだときに相談できるのがいい」、「診察で聞き忘れたことがあったときに、オンラインで質問できたらいいなと思っていた」などのコメントをいただいています。

 LINEも、視覚的に分かるコンテンツを配信したり、簡易的な質問ができるツールとして活用しています。LINEを使っている若い世代が増えていますし、これまでLINEを使われていなかった世代の方も、これをきっかけに使い始めたという患者さんもいらっしゃいます。

 

―茨城県に特有の地域性はありますか? 

 茨城県は関東でありながら、不妊治療ができる施設が偏在しているという問題があります。中心部のつくばにはいくつかのクリニックがありますが、水戸より北側にはほとんどなく、県北の福島側の医療施設が足りていない状況です。常盤や福島県から水戸まで通ったり、当院まで時間をかけて来てくださる患者さんもいます。車社会ですので、車で1時間というのが普通ですが、中には片道3時間かけて来てくださる方もいて、負担は大きいとは思います。

 

一方で、県内で不妊治療を実施さていない婦人科の先生から紹介をいただくことも多く、今後、そういった産婦人科の施設と不妊治療施設が連携をとりやすくできるよう、ネットワク―クシステムの構築を進めているところです。茨城県では各不妊治療施設、総合病院、少子化対策課が連携して不妊治療に関するカンファレンスを行っており、県全体で妊娠を希望されているカップルを支援する体制を構築しています。

 

―様々な先進的な取り組みによって、地域の方に、行政や他医療機関とも連携してより良い医療を提供できるように素晴らしい努力をされているという印象を受けました。本日は、ありがとうございました。