【広島県】広島HARTクリニック 医師インタビュー vol.13

· 医師インタビュー

 

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不妊治療は次世代につなぐ、より幸せになれる究極の治療 

―先生が産婦人科の中でも、生殖医療を選ばれた理由を教えてください。 

 産婦人科は診療内容が妊娠出産管理、がん治療、婦人科手術など複雑多岐に渡り、出産から亡くなられる症例までの対応が必要な診療科です。

 通常の妊娠出産はそれ自体でもとても喜ばしいことで、家族だけでなく祖父母、その他親戚・友人までも広がる慶事ですが、望んでもなかなか挙児に繋がらない不妊症のご夫婦にとって挙児を得ることで家族が出来ることは奇跡に近いこれ以上の喜びは無い事柄となります。結婚後通常であれば1年8割、2年で9割が妊娠に至りますが、妊娠に至らないご夫婦こそ医療技術を用いて全力で助けてあげたいという気持ちになりました。

 「人は人のために生きてこそ人」というのが自分の信念であり、産婦人科医として自分はどのような分野において最も貢献できるかを考えた際、天職として一生続ける事が出来るのが生殖医療(不妊治療分野)と思いました。

 私は、生殖補助医療の臨床を極めるため、日本以外の国で生活することの意義を理解するために、アメリカに6年半滞在しました。それによって多民族国家であるアメリカと単一民族国家である日本の違いを実感し、競争原理のみで人生を切り開く必要があり、安全・安心も自分で保証し守らなければならない国が多い中、日本は和の心を中心とした武士道を持ち共存共栄、他への思いやりを旨とした生活・行動様式がある世界の中でも最も安全で住みやすい国であると思っています。

 その日本に日本人として生まれることはとても幸運なことで、世界全体から考えて80億分の1億人であり、プラチナチケットを得るのと同じことと思えます。その生まれてくる存在の中に、日本人として世界を変えていく能力の一人が含まれていれば、どんなに素晴らしいことか、と思えます。不妊治療は次世代へ繋がる人材を育む究極の治療です。

 

初診の次の周期に体外受精。最先端の技術で納得できる治療を行う 

―広島HARTクリニックの特徴について、教えてください。 

 当クリニックは難治性不妊治療を専門とする医療施設で、体外受精等の生殖補助医療(ART)に特化したクリニックです。ウエブサイトにも記載しておりますが、「私たちにしかできないこと」として、なかなか挙児に恵まれない方、他の施設において不妊治療を行うも結果に繋がらなかった方を中心に診療しています。

 

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広島HARTクリニックの待合室

 

 一般的な不妊外来では、基礎体温をチェックし、いろいろ検査を行い、タイミング法や人工授精から開始することが多いと思われますが、不妊治療において時間が掛かり、年齢が進んでしまうことが一番の問題と考えており、広島HARTクリニックでは、通常ですと初診の次に来る生理周期から体外受精を企画するようにしています。現在、日本には約600施設が体外受精を治療法として登録している状況ですが、我々のようなアプローチを取る施設は少ないと思われます。

 

―治療の中で大事にされているのは、どういうところですか? 

 東京や大阪に行けば、もっといい治療を受けられるというのではなく、広島HARTクリニックでできないのであれば、地球上どこに行ってもできないという究極の不妊治療を目指しています。いい方法があれば積極的に取り入れていきますし、もし存在しないのであれば自分で作るという信念をもってやってきました。

 1995年にアメリカから帰ってきた当時、凍結胚移植は受精卵をゆっくり凍結する緩慢凍結法(Slow Cooling法)で行われていましたが、これは生存率も妊娠率も低く、何かよい方法はないかと考えていました。

 その当時、畜産における低温生物学の分野では、効率的な繁殖技術や絶滅危惧種の長期保存の目的で、ガラス化法と呼ばれる凍結技術が用いられていました。一瞬で凍結して、一瞬で解凍する方法です。これを不妊治療に応用できるのではないかと考え、この技術での研究を積極的に行っていた高知大学農学部の葛西教室と共同研究を行い、ヒトにおけるガラス化法の応用したプロトコールを確立し、1997年にガラス化法での妊娠出産を生殖医療分野の海外学会誌に報告しました。それ以降多くのクリニックで用いられるようになり、世界の不妊治療施設に有用な技術として拡がっていきました。

 顕微授精も、1992年にベルギー初めて顕微授精による妊娠が報告されてから30年が経っても、世界中でこの技術が使用されています。当クリニックでは、2016年にこれを改良したPiezo ICSI(ピエゾイクシー)という最先端の顕微授精システムを導入しています。

 

 

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顕微授精の様子

 

 100人初診として来院され、その100人とも全員妊娠するというクリニックは世界中どこを探してもありませんが、当クリニックは100人来院されたら100人に納得いただけるように、今ある最高の治療技術を提供しています。

 

―今着目している治療法や技術はありますか?  

 流産を繰り返している患者さんの場合、35歳以上であれば、流産の原因となる染色体異常を検査するための遺伝子診断を行っています。

着床前遺伝子検査(PGT-A)では、多くの施設は異数性解析といって、21番染色体が3本あればダウン症というように、染色体の数によって異常を調べる検査を行いますが、当クリニックでは、採取された細胞から異数性に関する情報だけでなく、これに倍数性解析であるSNVジェノタイピングという方法を用いて倍数性の異常も検出できるようにしており、より詳細な遺伝子診断を行うことが出来るようにしています。

広島HARTクリニックでは、妊娠する可能性を高める究極の治療法をそれぞれのご夫婦の状況を踏まえて丁寧に提案し、最終的にはご夫婦が希望した治療を行うというアプローチで、患者さんに接しています。

 

ARTラボの技術を高めることで、受精卵の持つ可能性を最大限に高めるようにする 

―最先端の技術によって、究極の治療を提供されているということですね。 

 不妊治療では様々な技術がありますが、当クリニックはあくまでもARTに特化していますから、卵子と精子から受精卵を作り、子宮に戻して妊娠というプロセスの中で、それをいかに高められるかに重点を置いています。

 妊娠の鍵は、卵、精子、受精卵です。1個でも多くよい卵を採るための誘発をかけ、いちばん優れたPiezo ICSIで受精させ、タイムラプスによって培養環境を整え、1個でも多くの受精卵を得るようにします。これらにはラボの技術が重要になってきます。

 広島HARTクリニックは、充実したART関連機器を用いて十分な人員で最先端技術を提供できる最高レベルのラボ部門を併設し高い妊娠率をもたらしていることが一つの柱になっています。

 

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広島HARTクリニックの培養室

 

 私はアメリカの不妊研究クリニック(ダイヤモンド不妊クリニック・NY/NJ USA)で5年間、ラボディレクターとして卵子と精子、受精卵を見てきた経験がありますので、卵子や精子のことを知ったうえでの提案をできることが強みです。会社でも、最初から経営部門にずっといた人より、一度生産部門を経験してからトップになったほうが現場のことをよく分かっていますよね。それと同じでラボで学んだ経験が今生きているのだと思います。

 

―4月から保険適用になったことで、患者さんに変化はありますか? 

 広島HARTクリニックでは、一般的な不妊治療や他の施設でのART医療を受けても結果につながらなかった方々、PGT-A(着床前胚染色体異数性解析)を用いた治療を中心に受けたいと思われる患者が多いため、多くの不妊治療施設と比べて、保険診療の割合は少ないと思われます。

 43歳以上は対象外ですし、PGT-Aも保険診療で認められていませんので、どうしても自費診療で受けられている患者さんが多くなってしまいます。

 保険診療対応で問題なく行える場合は保険診療を用いますが、保険外の医療を併用する必要がある場合は、十分説明し、自治体の助成金を活用して、負担を減らしていただくことになります。 保険適用になったことは良い方向に進むと思われますが、始まったばかりで制度設計に多くの不備があるのは事実なので、今後改善されていくことを期待します。

 

家族を得るための他の選択肢を提供することも大事 

―中には治療を繰り返しても難しい患者さんもいらっしゃると思いますが、どのように判断をされるのでしょうか? 

 卵が採取でき、受精も確認出来て、胚盤胞に到達し、それを移植して妊娠するも流産し挙児に至らないのであれば、子宮には着床能力があるため、詳細な流産対策を行い、次の周期で正常染色体背景の良い受精卵を得ることができれば、十分挙児に至る可能性はあります。

 しかしながら、卵が採取できない、卵が採取できても受精しないのであれば、不妊治療を続けることは難しいですし、3回適切な採卵周期で十分な数の受精卵が得られても胚盤胞に全くならないのであれば、4回目の採卵を企画し、胚盤胞が得られても質的に問題があることが多く挙児に達するのは難しいと考えざるを得ません。

 生殖補助医療を駆使して6周期程度いろいろな方法を試みて、半年やってみてできなかったのであれば、専門家として適切に説明し、自分の偏った考えやいろいろな治療をトライしてみたいという情熱で患者さんを振り回すのは専門医としては不適切であると考えています。

 

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広島HARTクリニックのカウンセリング室

 

 卵巣機能低下、早発閉経などにより自分の卵で妊娠できないのであれば、挙児が既にある妹の卵の提供を受ける、また海外で卵を得るなどの卵提供プログラムという方法もあります。子宮に問題があるのであれば、里親養子縁組もあります。自分と遺伝的なつながりがある子供ができなくても、里親養子縁組で立派に子供を育てられているご家庭もあります。家族を得る手段として、こうした選択肢についての情報を適切にお伝えすることも生殖医療の専門家としては大事なことだと思っています。

 

―究極の治療を受けた結果として、様々な選択肢を提示されるのであれば、患者様にとっても次のライフステージにつながる希望が見えるかもしれませんね。本日は貴重なお話をありがとうございました。