【山梨県】このはな産婦人科 医師インタビュー vol.9

· 医師インタビュー

 

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目の前にいる患者さんの妊娠率を上げることに集中し、胚培養士、看護師と密に連携を取りながら診療を行う 

ーまず最初に、先生が産婦人科医を目指された理由を教えてください。 

 様々な勉強をする中で、内科的領域と外科的領域の両方の治療が可能な産婦人科を選びました。1990年頃、日本において生殖医療で最先端の治療を行っていた東京の虎の門病院に研修に行き、そのまま大学産婦人科の立ち上げに携わりました。当時は、周産期から腫瘍まで幅広く経験するのが主流であり、その中の一つに生殖医療がありました。周産期など幅広く携わっていくなかで、現在は生殖医療を専門にしています。 

 

ー生殖医療に携わる中で、先生が心がけていらっしゃることはなんでしょうか。 

目の前にいる患者さんの妊娠率を上げることです。そのためには、エビデンスに基づいた治療を行うこと、また医療体制を整えることが大事だと思っています。近年は様々な設備や技術がありますが、必ずしもすべてにおいてエビデンスが確立しているわけではありません。必要なものを取捨選択したうえで導入していくことが必要でしょう。また、医療体制について、生殖医療においては胚培養士や看護師の存在が欠かせず、当院では特に、胚培養士の養成に力を入れています。チーム体制の下、協力して治療を進めていくことが大事なように思います。 

ありがとうございます。患者さん自身はエビデンスに触れる機会も多くなさそうですが、根拠に基づいて治療をしてもらっていると思うと安心感がありそうですよね。 

 

タイミング法から体外受精までを網羅的に診療。悩んだらまずは相談に来てほしい 

ーここからは、先生の治療方針についてお伺いさせてください。まず、体外受精をしている患者さんにはどのような治療法を用いられているのですか。 

 年齢にかかわらず、高刺激法のほうが妊娠率が高いという報告に基づき、高刺激法で治療を行うことが多いです。ただ、卵巣機能が落ちた方など高刺激法に向かない症例があることも分かっているので、その場合は低刺激法を行っています。 

 また、初めての方については新鮮胚移植を行うことも多いですね。若い方ですと胚盤胞は余ったりしますし、40代だと新鮮胚と凍結胚ではそれほど妊娠率が変わらないというデータもあります。凍結すると2周期分の時間が掛かってしまうので、1か月ですら貴重な40代の方にとっては意味のあることだと考えています。 

 

ーたしかに、早期に治療を受けられることが大事なんだろうなと思います。体外受精をこれから始めたいという方もいると思うのですが、治療開始までに待ち時間が発生する可能性もあると聞いています。 

 そうですね。患者さんが受けたいときに受けられるのが、医療のあるべき姿だと思っています。特に不妊治療は早期に始めれば始めるほどその成功確率は高くなりますから、一刻も早く開始してあげたいという気持ちでいます。そのため、こちらでは、体外受精の患者さんは初診から1か月くらいで開始できるように体制を整えてきました。 

 ただ、あまり無茶をしてしまうと逆に安全面など標準的な医療が提供できなくなってしまう可能性がありますから、閾値を見極めることが重要だと考えています。その意味では、すごく心苦しいのですが、もしかしたら今後、保険適用化により患者数が増えた場合は、治療をお待ちいただく可能性もあるかもしれません。 

 

ーよく理解できました。今まで体外受精を始められる方についてお伺いしてきましたが、不妊治療を始めるべきかと迷っている方々についてはいかがでしょうか。 

 近隣の婦人科に行くのもひとつですが、もし不妊治療を始めるべきか現在迷っているなど、不妊にまつわる不安がある方は当院にいらしていただければと思います。まずは一度お越しいただいて、タイミング法や人工授精、体外受精なども含む治療を開始するか、もう少しご自身で取り組んでいただくかを決めていただくのがよいように思いますし、そのために必要な検査や診療をさせていただきます。 

 

ー先生にご相談させていただくことで患者さん自身が安心できるという利点もありそうですね。実際いらっしゃる患者さんは、どのような治療 (タイミング法、人工授精、体外受精)から始められることが多いのですか。 

 最近は体外受精を希望される方も増えてきました。ただ、敷居が高い治療ではあると思うので、患者さんの意向や不妊歴、検査結果を確認し、体外受精とは何かを説明したうえで、治療法を決定しています。患者さんのご希望がない場合は、検査をしたうえで、タイミング法から始めることが多いです。もちろん、夫婦生活を持ち、自然妊娠できるのが理想だとは思いますが、ライフスタイルも多様化していますから、まずは相談していただければと思います。 

 

山梨大学とも密に連携を取ることで相互補完した医療を目指す 

ーこのはな産婦人科は、山梨大学との包括的連携協定として作られたそうですね。病院とも頻繁に連携されていらっしゃいますか。 

 はい、大学とは密に連絡を取りながら診療しています。クリニックに携わっていると、医師はひとりしかいませんから、大学のように24時間体制を取るわけにはいきません。なにがあるかわからないのが医療ですから、緊急時をはじめとし大学病院を頼りにしています。また、山梨大学からこちらのクリニックの診療を手伝いにきてくださる先生もいます。 

 とはいえ、人の時間やできることには限界もありますから、研究や教育も行う大学ばかりにすべて集中するのも違うように思います。大学病院のいいところと、クリニックのいいところの双方を生かす形で取り組んでいけるとよいですね。 

 山梨県全般として、大学病院と周辺の生殖医療クリニックを含む産婦人科同士で密な連携を取られているように思います。 そうだと思います。山梨大学の平田先生を中心に、各々が同じ方向を向いて山梨県の婦人科医療をよりよくしようと取り組んでいます。

 

ー山梨県における地域連携の仕組みは、患者さんにとっても心強いですね。本日は貴重なお時間、ありがとうございました。