※本記事は、山梨県の「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」の採択事業者として、弊社の事業「不妊治療環境改善プロジェクト」の一環としてインタビューにご協力いただいたものです。
山梨大学における不妊治療の成長期、留学などの経験を通し深めた不妊治療の知見
ーまず最初に先生が産婦人科医、生殖医療専門医を選ばれた理由を教えてください
最初に産婦人科医を選んだのは、周産期医療、特に新生児の治療に携わりたいと思ったことがきっかけです。その後、周産期、婦人科の様々な疾患で、診療科を横断した医療に携わっていく中で、婦人科医が主体的に携わる分野を専門性にしたいという思いが強くなりました。
そんな折、当時生殖医療が優れていた虎の門病院で、1年間研修をさせてもらう機会がありました。日本でも生殖医療が始まってから日が浅く、まだ皆が手探りだったころです。1年間研修を行う中で、婦人科医が主体的に携わる分野であること、また、今後さらに発展していくと考えられた医療分野であることから、生殖医療を深めたいと考えるようになりました。
さらに、医師になって5~6年目に、不妊治療の権威であられる星和彦先生 (現スズキ記念病院 名誉院長)が教授として赴任されて、ともに診療を行ったこと、ハワイに留学し研究を深めたことなどが重なって、長期的に携わることを決めました。
ー当時はどのようなご研究をされていたんですか。
細胞内に存在する細胞小器官にミトコンドリアというものがあるのですが、そのミトコンドリアが卵子の質や老化に及ぼす影響を研究していました。一般的に卵子の老化は不妊の要因であると言われますが、現在それを食い止める方法は確立していません。だからこそ、妊娠を希望される方は早期から受診してほしいと考えています。
患者さんに合わせた治療を提供、また患者さんの待ち時間は極力短くする工夫を
ーでは次に、治療について教えていただければと思います。初めていらした患者さんにはどのような診療を行っているのですか。
初めていらっしゃった方には状況をお伺いしつつ、まずは検査をし、検査結果に応じて治療方針を決めています。検査としては、卵管の通りを見る卵管造影検査や、精子の濃度、運動能、形態を観察するなどがあります。なるべく自然に授かるのが良いとは思いますが、年齢が高くなるほど難しくなりますから、できるだけ早期に治療を始めたいとも考えています。
ー検査をしたあとに、治療方針を決定されるのですね。治療方針を教えていただけますか。
検査を経て、体外受精を行う場合、患者さんに合わせて高刺激法と低刺激法を使い分けています。基本的には高刺激法でなるべく多くの卵子を採卵し、状態がよいものを使用したいと考えています。また、反応が良いうちに多くの受精卵を残しておくことで、2人目、3人目を望む患者さんの希望にも応えやすくなると考えています。
ーありがとうございます。不妊治療を始めるにあたり、どれくらいの知識を持っておくのがよいかわからない患者さんも多いようです。
不妊治療を始めるまでは、不妊治療は決して身近ではないでしょうから、不安になられる気持ちもよくわかります。当クリニックにいらっしゃる患者さんも、詳細に調べてこられる患者さんもいれば、そうでない方もいます。知識がないからといって、来院を躊躇する必要はありませんし、疑問点があれば聞いていただければと思います。
また、通院を継続するうえでは、患者さんが感じる、クリニックとの相性もあると思います。ご自身が通いやすいと思えるクリニックを見つけることも、重要なことかもしれませんね。不妊治療はなかなかよい結果が得られない場合や、原因が特定できないこともあるので、患者さんとの信頼関係が非常に重要だと考えています。当院でも、患者さんが継続できるよう、看護師などが最大限のサポートを行っています。
ーありがとうございます。弊社のアンケートでも、不妊治療を継続することの難しさについて言及している患者さんが多かったです。その一因には、仕事や家事と、不妊治療の両立の難しさもあるようですね。
そうですよね。そのため、当クリニックでは患者さんの待ち時間を極力短くしようと試みており、現在は完全予約制を導入しています。もちろん状況にもよりますが、長時間お待たせせずに診療を行うことで、患者さんの通院負荷を少しでも軽減したいと考えています。
また、初めていらっしゃる方には紹介状をお願いしていた時期もあります。なるべく多くの患者さんを診たいという気持ちもありますが、医療は安全性を維持できることが大前提です。現在は紹介状がなくても受診いただけますが、今後また紹介状をお願いする可能性もあります。
山梨県の病院間連携をさらに強固にし、不妊治療を取り巻く環境を向上させたい
ー今のお話を伺いながら、かかりつけの婦人科を作ることもひとつの手のように感じました。日本では婦人科に通院する方が少ないと聞いたことがありますが、早期よりご自身の身体を知ることが大切かもしれないですね。
そうだと思います。冒頭でお伝えしたように、卵子の老化は不妊の一因となりますから、早期よりご自身の身体を知り、治療に取り組むことは重要であると感じています。実際に治療に携わっていると、もう少し早く来てくれればと、もどかしく思うこともあります。
若い時からご自身の身体を知り、妊娠、出産を身近なものとして捉えるには、夫婦が産み育てやすい世の中を作っていくことも大切であると考えています。
ー山梨県ではどのような工夫をされているのでしょうか。
生殖医療の専門施設や、お産を扱っている施設数が少ないこともありますが、大学病院 (山梨大学医学部附属病院)、山梨県立中央病院を含む産婦人科間での連携が密であると感じています。生殖補助医療で妊娠した場合は、ハイリスクなので、複数の医師のいる病院に紹介しています。特に、高齢、合併症がある場合、子宮筋腫や子宮内膜症がある場合も、大学病院や県立中央病院にお願いしています。
ー患者さんにとっても、医療機関が連携していると、安心して治療が受けられますね。最後に、上記の取り組みに加え、先生が今後取り組まれていきたいことがあれば教えてください。
目の前にいる患者さんに注力することに加え、少し先の山梨県の生殖医療にも貢献していきたいですね。一例としては、培養士の育成が挙げられます。不妊治療においては、医師、看護師だけでなく培養士の存在も欠かせないですからね。日本全体として課題になっているようにも感じますが、山梨県内からも良い人材を輩出できるように取り組んでいきます。
ー本日はありがとうございました