【山梨県】山梨大学医学部産婦人科  医師インタビュー vol.7

· 医師インタビュー
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※本記事は、山梨県の「TRY!YAMANASHI!実証実験サポート事業」の採択事業者として、弊社の事業「不妊治療環境改善プロジェクト」の一環としてインタビューにご協力いただきました。

 

子どもを授かれなくて悩んでいる方たちをサポートしたいと考え、生殖医療の道に 

ー 最初に、生殖医療に携わるようになった背景を教えてください 

 産婦人科には、がんや周産期など、扱う領域が幅広いという特徴があります。そんな中でも不妊治療に興味を持ったのは、子どもを授かれなくて悩んでいる方たちをサポートできたらと思ったからです。実際に、自然に妊娠し出産する方たちの影で、子どもを授かることができずに辛い思いをしている患者さんたちはたくさんいらっしゃいます。その方たちをどうにかサポートしたいという思いで、不妊治療に取り組んでいます。 

 

ーありがとうございます。不妊治療における先生の治療方針を教えていただけますか 

 体外受精を行う場合は、患者さんに応じて治療法を選択しています。通院されている患者さんには、どちらかというと採卵周期は高刺激法を行うことが多いです。というのも、卵をたくさん採らなければ、移植して妊娠するチャンスも減ってしまうと考えているからです。当然、全員が高刺激法というわけではなく、低刺激法が適している場合には低刺激法を行います。 

 また、当院では、PGT-A (着床前胚染色体異数性検査, 体外受精によって得られた胚の染色体数を、移植する前に網羅的に調べる検査で、現在実施をするためには臨床研究施設としての認定が必要)やERA (子宮内膜着床能を測定する検査)なども実施が可能です。 

 

大学病院で診られる症例を診ることですべての患者さんが治療を受けられる世界に 

ー 全国的に、厚生労働省が定めた特定機能病院 (地域の中核的医療及び高度医療を担う医療機関)を受診するには紹介状が必要であるという流れがあるかと思います。山梨大学も特定機能病院と指定されていますが、受診するのには紹介状が必要なのでしょうか。 

 はい、2021年の8月から、紹介状がないと当院の不妊外来を受診できない形に変更しました。不妊治療を検討された場合、まずはかかりつけの婦人科を受診いただき、必要に応じて紹介状を書いていただく体制を築くことで、ひとりひとりの患者さんを丁寧に診療し、また、大学病院だからこそ診られる患者さんにも向き合いたいと考えています。 

 

ー 大学病院で診られる症例について、もう少し詳しくお聞かせいただけますか 

 まずは、合併症を抱えているために、不妊治療のリスクが高い方などがいらっしゃいます。例えば、膠原病や血液疾患があるために出血しやすいような患者さんや、婦人科がんや乳がん、白血病などのがん患者さんなどがいらっしゃいますね。 他にも、無精子症で精巣生検をしなくてはならない場合などもお越しいただくことが多いです。 

 

ー そのような患者さんが不妊治療に取り組めるための仕組み構築をされているということですね。一方、患者さんの中には、どのように知識を習得したらよいか悩まれる方もいるようです。 

 そうですよね。先ほど、当院では初診は全て紹介制というお話をしましたが、それは最初に時間が必要だと思ったからなんです。 

 紹介制にすることで、最初に1時間程、お話をする時間をとるようにしています。患者さんがどれくらい情報を知っているのか、あるいは過去にどのような治療をしているのか、今後の計画や経済的な事情なども含めて、さまざまなことをお伺いするようにしています。県内でも富士五湖地区など遠方から当院を受診される方もいらっしゃるので、距離的な面も含めて、今後どのように治療に取り組んでいきたいのか、最初に整理する時間を設けています。その結果、適切な治療施設として県内の他のクリニックを提案することもあります。 

 

ー患者さんの情報リテラシーが上がったために、患者さん主導で検査を進めていきたいと希望されるケースもありますか 

 もし、どんどん検査を先行して受けたいという患者さんがいたら、時間をかけて、ご説明するようにしています。検査の金額や有効性などをご説明した上で、納得して検査を受けていただくよう努めています。

 

山梨県内で、高度な不妊治療を提供できる体制を築いていきたい 

ー最後に、先生の今後の目標を教えていただけますか。 

 山梨県内で高度な不妊治療を提供できる体制をさらに築いていきたいです。具体的には大きく2つのことに引き続きチャレンジしていきたいです。1つめは、先ほどお話したような特定機能病院として地域の医療最適化のための仕組みの構築を行うことです。そして、2つめは、新しい検査を取り入れていき、山梨大学で提供できる医療の幅をさらに広げていくことです。 

 

ー1つめについて、山梨県には不妊治療指定医療機関が全部で4施設ありますが、そちらとも連携されることはあるのでしょうか。 

 はい、全部で県内に4施設しかないからこそ、密に連携をすることが可能になると考えています。私自身も、不妊治療クリニックの先生方を存じていますが、どちらのクリニックもしっかりと診てくださるところばかりです。だからこそ、それぞれの医療機関ができる役割をきちんと担っていくことで、山梨県における生殖医療の質がさらに向上していくと考えています。 

 また、それ以外でいうと、胚培養士の養成と働きやすい環境の構築が必要だと考えています。不妊治療は、医師、看護師だけでなく、胚培養士がいて初めて成立するからです。たとえば山梨大学を卒業した胚培養士にそのまま山梨県内で働いてもらえる環境を作りたいと、所属する医局の教授と一緒に考えているところです。 

 いずれは、不妊治療を扱っていない婦人科クリニックの先生たちに対しても、不妊治療に関心を持っていただけるよう働きかけるような取り組みもしたいですね。患者さんが、自宅の近くで不妊に関する不安を話せるような先生がいるだけで、早期受診につながると考えているからです。 

 

ー2つめについても、もう少し詳しく教えていただけますか。 

 不妊治療に取り組む患者さんに、少しでも多い不妊治療の選択肢を提供したいと考えています。先ほど、PGTを実施することができる認可施設として登録いただき、ERAも導入しているとお話をしました。このように、山梨県内で高度な不妊治療を提供できる体制を築くことで、山梨県に住む患者さんの生殖医療が、山梨県で完結できるように今後も取り組んでいきたいです。 

 

ー山梨県にお住まいの患者さんにとって、より良い治療環境の構築に尽力されていくということですね。今後、弊社としてもお力添えできることがあればと思います。本日はお忙しいところお時間いただき、ありがとうございました。