【沖縄県】空の森クリニック 医師インタビューvol.5

· 医師インタビュー

 

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沖縄県八重瀬町にある空の森クリニック。病院のウェブページを見るだけで、喧噪から離れ、まるで深呼吸をしているような穏やかな気持ちになります。また、多くの患者さんが受診をされており、沖縄県の不妊指定機関として、年間1,000例もの採卵件数1)を有しています。本日は、理事長でいらっしゃる德永義光先生にお話を伺いました。 

1) 2019年データ 

 

德永先生インタビューのStory

1.  不妊治療の経験を今後の人生の糧に転換できるように、との想いを込めたクリニック設計 

2.  MRIを用い徹底した検査。着床ではなく、出産を視野に入れた治療の実施 

3.  患者さんの人生がより豊かになるよう、日本全体の不妊治療の質の底上げに貢献したい 

 

不妊治療の経験を今後の人生の糧に転換できるように、との想いを込めてクリニックを設計   

―空の森クリニックといえば、病院とは思えない開放感のある施設が印象的です。どのようにして、この着想を得られたのですか。   

 患者さんの負担を取り除き、リラックスして受診できる施設にしたいと思ったのが原点です。今のクリニックの構想を作る前に、患者さんが治療をお休みしている間に新しい命を授かることが度々ありました。そのときに、不妊治療そのものが、患者さんに負担を掛けていること、その負担を取り除くことが必要だと考えたのです。 

 この考えを知人の建築家に伝えたところ、デザイナーの佐藤卓さん2)を紹介いただくことができました。沖縄県の特徴として、明治神宮みたいな森が少ないんですね。というのも、第二次世界大戦で燃えてしまったんです。当院は、その焼野原の上に建っているので、鎮魂の意味も込めて、心安らげるような森を作ろうということになりました。そして、頭を空っぽにできる、という意味も込め、空の森、と名付けました。 

2) グラフィックデザイナー、2021年に紫綬褒章を受賞されている 

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―空の森、という名前には、患者さんが心を空っぽにして自身と向き合う、という意味も込められているのですね。   

 はい。私自身、不妊治療自体を、新しい命を授かる治療だけでなく、患者さんがそこから続く人生をより豊かに生きるための学びの場にしたいと考えています。もちろん、新しい命を授かることができれば、それ以上のことはありません。でも、授からなかった場合にも、今まで取り組んできたことは決して無駄な時間ではなく、そこで学んだ価値観や、考え方は自身の糧になると考えています。 

 だからこそ、患者さんがリラックスして受診でき、かつ、普段の喧噪から離れ、心をからっぽにして自身と向き合える空間を作りたいと思っていたのです。 

 

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―広義に治療を捉えると、エビデンスの側面だけではなく、感情の側面も重要であるということでしょうか 

 はい、そう思います。エビデンスも重要ですが、サイエンスが人間を規定できるものではないと常々意識しています。だからこそ、診療するときは、人間の心や脳の動きなども意識しています。 

 

―なるほど、治療に必要な空間を作るのではなく、不妊治療の患者さんのよりよい経験を促す空間を実現されたのですね。 

 はい、そうです。実際に、呼び出しから診療までに時間が掛かった患者さんに聞くと、「気持ちよくて寝てしまった」という声が多く、過ごしやすい空間を提供できているのだと安堵しています。 

 

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来院した患者さんにはMRIを用い徹底した検査を行う。着床ではなく、出産を視野に入れた治療を実施 

―先生のクリニックにいらっしゃる患者さんには、どのような方が多いですか   

 初診でいらっしゃる方が多いです。当院にいらっしゃった患者さんには、まず、自身の身体を良く知ってもらえるよう、また、納得して妊活を始められるよう、徹底した検査を行っています。また、当院の院長である神山は、沖縄県で一人目の産婦人科腹腔鏡技術認定医の資格を有しています。それゆえ、器質性の婦人科疾患があったような場合にも、疾患の治療から始めることが可能です。   

 

―徹底した検査について、もう少し詳しく教えていただけますでしょうか   

 一般的な施設では内診で検査をすることが多いですが、当院にはMRIの設備を導入しています。これにより、子宮や卵巣といった内診で確認できる部位に加え、身体の全体像を捉えることができます。さらに、MRIでは、内診では見られないような細部の情報まで得ることができます。 

 例えば、子宮収縮検査。子宮はダイナミックな臓器で、生理中は上から下に動いて月経血の排出を助け、排卵期は下から上に動いて精子の受け入れを助け、着床期は動きが止まり受精卵を待っている状態になるんですね。そのため、着床時期には動きがないはずなんですが、動きがあり着床を妨げてしまうようなことがあり得ます。 

 そのため、子宮の動きを確認するのですが、経膣エコーで行おうとすると子宮頚部を刺激することになり、どうしても子宮が動いてしまうんですね。一方で、MRIで検査を行う場合、子宮頚部を刺激せず、通常の子宮の状態を確認することができます。 

 

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―なるほど。着床がゴールではなく、その先も考慮に入れ治療していくということですね 

 その通りです。不妊治療においては、受精の部分が注目されやすいですが、最終的に命が誕生することまでを視野にいれて治療を行う必要があると考えています。     

 

患者さんの人生がより豊かになるよう、日本全体の不妊治療の質の底上げに貢献したい   

―先生がこれから実現したいことについて教えていただけますか 

 

日本全体における、不妊治療の質の底上げに貢献したいと考えています。ここでの質には、医療サービスとしての質も含まれています。医療はその特性から、どうしてもサービス業から一線を画しているように捉えられがちですが、そうではなく、患者さんの人生がより豊かになるように治療を提供していきたいと考えています。   

 

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―不妊治療患者さんの通院負担なども話題になっています 

 また、将来的には今よりも技術やシステムが格段に発展すると思います。例えば、不妊治療を受ける患者さんが原則在宅管理をし、採卵などの必要時のみ不妊治療クリニックを受診できるようになると良いですね。特に沖縄は離島が多く、患者さんが通院するのに海路を経ないといけないといった不便さもあります。現時点で、患者さんの通院負荷が大きいことは重々理解していますから、解決策が見いだせていけると良いなと思います。 

 その第一歩として、通常は近隣の産婦人科クリニックと不妊治療クリニックが連携をし、患者さんが普段の治療は産婦人科クリニックで、採卵などのタイミングでは当院に来院してもらえるようなスキームも今後検討していきたいと考えています。    

 

 ―沖縄の地形特有の課題がありそうですね。沖縄県の患者さんが土地の不便さから治療継続を断念する事がないよう、我々も遠隔での診療をサポートするシステム開発を考えていきたいと思います。本日はありがとうございました。   

 

<cocoromi編集部より取材を終えて> 

医師でありながら、患者さんを患者さんとして見るのではなく、一人の女性として、その方がより良い人生を歩んでほしいと願っている、という気持ちに心が熱くなりました。また、そのようなお気持ちで治療の成果も最大化することを目指していらっしゃるからこそ、検査による原因の解明と、仮説に基づく治療の実施が徹底されているのだと感じました。