【東京都】フェニックス アート クリニック 医師インタビュー vol.30

 

broken image
broken image


不妊治療における子宮・卵巣疾患の捉え方

今回、患者様向けアプリcocoromiユーザーを対象とした、子宮・卵巣の疾患を抱えながら不妊治療をされている(もしくはされた)方の実態調査を行い、この結果をもとに、子宮・卵巣疾患と不妊治療のかかわりについて、フェニックスアート クリニックの藤原敏博院長に解説していただきました。

 調査対象は、子宮内膜症、卵巣チョコレート嚢胞、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫のいずれかに罹られたことがあり、かつ体外受精もしくは顕微授精の治療をしている、もしくはされていた方が対象でした。

 

 

 

子宮・卵巣疾患は妊娠や出産に影響し、年齢とともに発症率が高まる

broken image

―疾患の種類についての質問では、最も多く診断された疾患が(卵巣チョコレート嚢胞のあり・なしを含む)子宮内膜症で34%、続いて子宮内膜ポリープが22%、子宮筋腫が20%という結果でした。これらの疾患は不妊と結びつくことがあるのでしょうか?

 妊娠は子宮ならびに卵巣や卵管といった環境すべてが直接的・間接的にかかわって起こるものですから、それら臓器の疾患となれば、程度にもよりますが、やはり多少とも影響はしてきます。その影響が小さければ、それらの疾患を治療せずに妊娠できる場合もありますが、ホルモンのようにその程度を数値で表すことができないため、ケースバイケースということになります。

 

―これらの疾患のうち2種類や3種類の疾患を併発されている方が2割以上となっています。これらは併発や再発することが多いのでしょうか?

 特に特定の疾患どうしが併発しやすいということではなく、年齢が大きく影響しているのではないかと思います。一般的に、子宮筋腫や子宮内膜症は年齢が上がるほど発症率が高くなるので、その結果として併発も起きているのではないかと思われます。当院の場合は、子宮筋腫と子宮腺筋症、子宮内膜症と子宮腺筋症というパターンで併発するケースが比較的よく見られます。

 これらの疾患は基本的に自然に治ることはありません。筋腫の場合は腫瘍ですから手術をしてきちんと取り除けば、多発性でない限り比較的効果が持続します。子宮内膜症は治るものではなく、閉経するまでその要素が持続します。薬物療法を中断してしまったり、治療後のケアを怠ったりしてしまうと、ほぼ確実に再発します。疾患の特性に応じた管理が重要です。

―これらの疾患の出産に対する影響については、どのようにお考えですか?

 子宮筋腫や子宮腺筋症は妊娠すれば終わりではなく、妊娠中にも切迫流早産、早産の原因になることもあります。ハイリスク妊娠であることに変わりはありませんので、疾患の治療だけでなく、妊娠中のケアもできる周産期センターなどで管理をすることが望ましいと思います。

 

 


将来の妊娠に向けた定期健診による疾患の把握が大切

broken image

―診断されたタイミングについての質問では、不妊治療をするときが54%、不妊治療の前に婦人科などで診断された方が36%という結果でした。この結果について、どのように思われますか?

 子宮頸がん検診などは受診することが広く啓発されていますので、そうした検査のときにたまたま子宮筋腫が見つかったり、その後の精密検査で卵巣にチョコレート嚢胞が見つかったりするということはよくあります。今回の結果で、事前に疾患の存在が分かっていた方が一定数いたという結果は、十分に頷けます。

 近年、若いうちに自身の体の状態を把握し、異常があればそれに対するアプローチを行いましょうという「プレコンセプションケア」が叫ばれるようになりましたね。その一環として、定期的に婦人科検診を受ける方が増えれば、より多くの方が事前に疾患の存在を把握できるようになると思います。

 


手術によって妊孕性が低下する可能性があることに注意が必要

broken image

―不妊治療の前に診断された方に対する質問で、「どのような治療を受けましたか?」という問いに対し、「手術」が72%、ピルなどの「経口薬」が17%、「その他」が11%という結果でした。どのような基準で手術をされるのでしょうか?

例えば、子宮内膜症では、最初は生理痛だけだったものが、癒着が強くなると慢性的な骨盤痛をきたします。そうなると薬物療法や鎮痛剤の併用では限界がありますので、そのときは手術の必要が出てきます。

ただし、手術をすると卵巣機能が低下することが知られています。チョコレート嚢胞は癌化する可能性があることから切除が推奨される場合もありますが、患者さんがこれから妊活をする予定がある場合は、妊孕性(妊娠のしやすさ)が低下することを認識したうえで、どの方法がベストなのかを検討する必要があります。

 

―同じく不妊治療の前に診断された方に対する質問で、「医師から治療後の妊孕性への影響について十分な説明がありましたか?」という問いに対し、「はい」と答えた方が50%、「いいえ」が22%、「どちらとも言えない」が28%という結果でした。ドクターの専門性によって対応が変わってくるということでしょうか?

 以前よりは妊孕性に対する注意喚起が声高に叫ばれるようになり、改善されてきてはいますが、現状は不十分ということですね。セカンドオピニオンでも、専門が異なる婦人科に行けば、真逆のことを言われて混乱する患者さんもいるでしょう。

 手術にはメリットもデメリットもありますので、患者さんごとにどちらのほうが好ましいかを考えて選ぶことになります。患者さんにとって最良な選択をするために、医師は広い視野に立って患者さんに説明をしたうえで、患者さんと一緒に選んでいくという姿勢が大事だと思います。

 

 

半数は初診の一連の検査の中で診断が可能

broken image

―不妊治療をするときに診断された方に対する質問で、「どのタイミングで疾患が分かりましたか?」という問いに対し、初診検査で分かった方が48%、治療をしている間に分かった方が52%という結果でした。初診検査だけで判断することは難しいものなのでしょうか?

 これは疾患によって異なりますが、形や大きさの変化がある疾患については早めに見つけることができると思います。例えば、子宮筋腫や子宮腺筋症などは子宮が腫れ上がる病気ですし、卵巣種嚢腫や子宮内膜症もチョコレート嚢胞がある場合は、エコーで比較的見つけやすいものになります。初診検査で分かった方が約5割という結果は少し少ない印象です。

 最初の一連の検査できちんとエコー検査をしていれば、子宮・卵巣そのものの器質性疾患をもう少し発見できるのではないかと思います。

―先生のクリニックでは診断の確率を上げるために、特別な取り組みをされているのでしょうか?

 特別なことはしていませんが、通常の検査などを1つずつ丁寧に実施していきます。

 通常はエコーから開始し、初回の検査だけではなく1周期の中でホルモン異常、排卵障害、器質性疾患(組織自体に何らかの異常が発生している疾患)などがないかを検査していきます。エコーで異常がみられ、より精密な検査が必要な場合はMRI検査を行うこともあります。

 

 

 

治療が必要になったときのフォロー体制が施設選びのひとつのポイントに

broken image
broken image

―同じく不妊治療をするときに診断された方に対する質問で、「不妊治療を受けた施設は疾患の治療ができる施設でしたか?」という問いに対し、「できる」と答えた方が48%、「できない」が41%、「わからない」が11%という結果でした。さらに、「できない」「わからない」と答えた方に対する質問で、「初診検査とは別の病院との連携または紹介を提案されましたか?」という問いに対し、「はい」が71%、「いいえ」が29%という結果でした。治療ができない場合は、できる病院に紹介するべきではないでしょうか?

 疾患に合併症があったり、治療をしなければ妊孕性に影響があることを認識したうえで対応しなかったのであれば、医師として道義的に問題があるとは思いますが、サイズが小さく、卵巣や子宮に問題があったとしても体外受精であれば対応できると考えたのかもしれません。

 当クリニックの場合は、東大病院や日赤医療センターなどの信頼できる病院と連携し、疾患に対して適切に処置ができるようにしています。また、子宮内膜ポリープの場合は、午前中だけで完結するデイサージェリーを確立していて、院内で対応することが可能です。

 不妊治療を実施する施設は、体外受精などの妊娠の成立の部分だけにフォーカスをするのではなく、多角的な視点をもって患者さんと向き合っていただきたいと思います。

 

broken image

フェニックス アート クリニックの受付・待合室

 

 

ご自身の疾患と妊娠への影響について確認する姿勢が大切

―患者さんは、どのようなところに気をつけて病院を探すのがよいのでしょうか?

 

 病院選びだけですべてが決まるのではなく、手術が上手であればよいわけでもありません。妊活に対する影響については、患者さんのほうから医師に質問をして確認するという姿勢が必要でしょう。ご自身の体のことですから、よく理解をしたうえで治療をする権利がありますし、それがご自身のためになるのではないかと思います。

 

―本日は、詳しい解説をありがとうございました。子宮・卵巣疾患の妊娠・出産への影響から、疾患が見つかったとき、治療が必要になったとき、治療を受けた後に注意しなければならないことまで、不妊治療を受ける患者さんにとって、大変参考になるお話をうかがうことができました。


-----------------------------

【調査概要】

■調査の方法:WEBアンケート
調査の対象:

子宮/卵巣の疾患(子宮内膜症、卵巣チョコレート嚢胞、子宮腺筋症、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫)にかかられたことがある方

体外受精(もしくは顕微授精)の治療をしている(いた)方

 有効回答数:女性50名

調査実施日:2023年9月25日~2023年10月30日

調査主体:vivola株式会社