【滋賀県】竹林ウィメンズクリニック 医師インタビュー vol.15

· 医師インタビュー

 

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 本日は、妊婦健診、分娩、不妊治療、婦人科外来などをおこなっている、滋賀県大津市の産婦人科、竹林ウィメンズクリニックの理事長、竹林浩一先生へお話を伺わせていただきます。先生、どうぞよろしくお願い致します。妊婦健診、分娩、不妊治療、婦人科外来などをおこなっている滋賀県大津市の産婦人科です。妊婦健診、分娩、不妊治療、婦人科外来などをおこなっている滋賀県大津市の産婦人科です

産婦人科医として、妊娠から出産までを見届ける 

―初めに、産婦人科を選ばれた理由を教えてください。 

 産婦人科を選んだ最初のきっかけは、親戚に産婦人科医がいたことですが、その生物学的な奥深さにも興味がありました。京都大学を卒業したあと、滋賀医科大学の産婦人科に移り、そこで不妊治療に造詣の深い恩師の影響を受け、生殖医療を専門としていこうと決めました。

 

―生殖医療の魅力は、どういうところにあるとお考えですか? 

 産婦人科には、腫瘍、周産期、生殖内分泌の主な領域があり、私はそれぞれの領域を経験する中で、当時は生殖医療が最も進化が速い領域だと感じました。腫瘍や周産期と比較して、生殖、特に不妊診療はその進め方のバリエーションが複雑で幅広く、やりがいがあると思いました。難治性の不妊症の患者さんの中にはなかなかいい卵子が採れない方も多く、“これが最初で最後の採卵かもしれない”、というような一発勝負のようなこともあります。

 後から考えると、まさに患者さんにとって命運を分けるような場面に立ち会うのですが、やり方次第では患者さんの人生を変えるかもしれないわけですから、生殖医療に当たる医師は、強い責任感をもって、患者さんと真摯に向き合わなければならないのは当然です。 培養士の実力はもちろん、ベストな戦略とベストなタイミングが重要です。

 

―先生のクリニックは生殖医療だけではなく、周産期も行われていますよね? 

 やはり元気な赤ちゃんを抱っこして帰る姿を見たいですよね。妊娠すれば終わりではなく、出産まできちんと見届けることができれば産婦人科医として最上の喜びになると思っています。

 

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本物の生殖医療が分かる医師を一人でも多く育てたい 

―先生は生殖医療の指導医の資格を取得されていますが、若いドクターを育てることにも力を入れられているのでしょうか。 

 人類は伝承によって発展を遂げてきたわけですから、自分の経験や知識を伝えないことはこの道に反するというものです。

 これから関わることがあるかもしれない多くの患者さんの為に、若いドクターに患者さんから学んできた多くのことを伝えて、教科書に載っていないような生殖医療の実践が分かる医師を一人でも多く育てたいと思っています。今も私の下で生殖医療の勉強をして、専門医を取得し勤務しているスタッフが1名、これから取得予定のスタッフが2名、専門医を既に取得して他の施設で勤務している医師が1名います。一人で診療できる数は限りがあるので、当院では現在複数名で診療しておりますが、医師間によって変わることのない、良質な医療を提供できるよう、日頃から情報交換を心掛けています。

 

―生殖医療に対する先生のお考えや治療法について、スタッフさんには、どのようにお話をされているのでしょうか? 

 私自身の治療法や考えも医学の進歩や時代の流れによって変わっていきますので、その刻々と変わっていく様を、私が患者さんにどのように説明しているのかを傍で聞きながら学んでくれていると思います。もちろん部署超えて柱となるようなことは主任スタッフ会議なるものでお話ししております。

 現在、当クリニックのスタッフは90人を越えていますが、どのスタッフも共通の認識をもって患者さんに接しています。培養士は外来にもでていますので、ラボ内で卵子、精子、胚を扱いながらも患者さんの顔が見える関係を維持しています。

 

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保険適用後は年齢層の低下により、妊娠率が全国的に上昇 

―2022年4月から保険適用になり、何か変化はありましたか? 

 全国的な傾向と一緒で、初診患者さんの平均年齢が下がり、数が増えました。経済的な負担が大幅に減ったことから、敷居が低くなったというのが一番の理由です。

 もちろん治療成績は、患者さんのバックグランドで変わります。保険適応後は、患者さんの平均年齢の低下や初めて不妊治療をされる方が増えたこともあり、妊娠率は上がる傾向にあります。保険適用になって、平均年齢が下がって、妊娠率が上昇したということです。

 

―保険制度については、どのように感じられていますか? 

 事務作業が煩雑になったのを除けば総論的にはもちろんとても良かったと思います。 ただ、精子の凍結保存が保険適用の治療に含まれていれば、さらによかったと思います。精子には波がありますので、普段は正常でも採卵時に採った精子がたまたま良くなければ顕微授精をせざるを得ないときがあります。また、旦那さんの体調や仕事の都合で急に精子を提出できなくなることもありますので、症例によっては万一を考えて精子を凍結保存しておけば、患者さんの負担も減り、妊娠率の向上も期待できます。

 それ以外にも、保険では使えないお薬が実は非常に安価で成績向上に役立つものもあり、そのあたりが変わっていけばいいなと思います。 一番の理想は混合診療の解禁なのですが、、、、

 着床前遺伝子検査(PGT-A)の保険適用化を要望する意見が上がっていますが、私自身の経験では、これまでにPGT-Aが本当に必要だと感じた症例は、ごくわずかです。 ですから、この点に関しては厚労省の提示された方針に賛成で、まだまだ研究的検査であると思います。遺伝子疾患など症例を限定して行うものは従来通り有益と思いますが、これを反復着床不全などになし崩し的に保険適応にするなら、もっと先に保険適応にしてほしい項目が他にあると思います。

 

基本はタイミング法で、人工授精や体外受精はオプション 

―治療方針を提案するうえで、心がけていることはありますか? 

 当クリニックではタイミング法を大事にしております。当然のことですが、タイミング法で妊娠できる患者さんはタイミング法で妊娠する可能性を最大限追及致します。

 また、正常に排卵する人には排卵誘発剤を使わない、人工授精しなくもいい人には人工授精しない、体外受精しなくてもいい人には体外受精をしないでやってみる、顕微授精をしなくてもいい人には顕微授精しない、その当たり前なことをきちんと実践していくことが大事です。そのことで患者さんは負担を減らし、成績は逆に向上します。

 治療の選択が難しい場合には、選択肢を提示したうえでまずは患者さんの自己決定を待ち、自ら決断できないときは、最終的には自分の娘、息子にならこうしてみるだろうな、と思う治療を参考としてこちらからご提案するようにしています。

 

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 男性側に関して言えば、プレッシャーを与えないようにすることです。精子所見についてドクターはともすれば数値で言い過ぎるところがありますが、数値上は驚くほど悪くても、意外にタイミング法で妊娠することもあります。つまり、顕微授精をしている間に自然妊娠することも実際にはあるんです。全ての可能性を否定しない、根拠のないネガティブ告知はしないことが大事だと考えています。そして夫婦仲良くが基本です。 

『及ばざるは過ぎたるより勝れり。』

これが私の治療方針のモットーですが、この意味が本当にわかる生殖専門医を育てていきたいと考えています。

 

―注目されている技術や治療法はありますか? 

殆どの方は適切な治療方針を実践することで妊娠していきますが、老化の問題など、どうしても妊娠に至らない方が一定の割合でおられます。その中でごく最近注目しておりますことは、採卵はできても不良胚しか得られない症例に対して、前核期の受精卵から透明帯を除去するという治療です。ミオ・ファティリティ・クリニック(鳥取県)院長の見尾保幸先生が世界に先駆けて発案された方法です。

この方法によって良好胚を一度も得ることができなかった多数回採卵不成功の患者さんが当院でも見事に妊娠されました。

 

―患者さんへのメッセージをお願いします。 

人の体は変化するものです。たまたまデータが悪くても、その後に自然に妊娠する方もたくさんいます。目新しい治療法がどんどん出てきて、治療計画で迷われることがあると思いますが、まずは夫婦仲良くタイミングが最も大事で、タイミングでは難しいと判断されてもタイミングを取りつつ、その上にオプションとしての不妊治療があります。 

 医師やクリニックとの相性もあるでしょう。夫婦間での価値観、人生観の相違で悩むこともあるかもしれません。100%妊娠が保障されているわけではなく、いろいろ考えればストレスだらけの不妊治療かもしれませんが、ぜひとも後悔しない選択を、後悔しない時間の使い方をしていただきたいと思います。

そしてどんな結果であれ、妊活終了の暁には頑張った自分(夫婦)に精いっぱいのご褒美をあげてください。 皆様のご幸運を心よりお祈り申し上げます。

 

ー「後悔しない選択、後悔しない時間の使い方」とても大切ですね。本日は貴重なお話をありがとうございました。