【対談インタビュー】腹腔鏡手術と生殖医療 後半編

· 医師インタビュー
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不妊治療における高度生殖医療と内視鏡手術(腹腔鏡/子宮鏡/卵管鏡)の両方を行うことができる日本でも数少ない施設である、新百合ヶ丘総合病院。前半編では腹腔鏡手術や生殖医療との関連についてお伺いをしましたが、後半編では、豊富な内視鏡手術の症例数を可能にする新百合ヶ丘総合病院の医療体制や治療方針、そして今後の展望についてお伺いしていきます。 

 

質の高い医療を迅速に数多く実現することを目指し、徹底して診療に向き合う 

―実際、年間でこれだけの数の内視鏡手術を行い、かつ総合病院でありながら不妊治療も提供することはかなり難しいですよね。どのように実現したのでしょうか。 

 

浅井)そうですね、内視鏡手術においては全国でも類を見ない症例数を実現できていると自負しています。また、当院が開設されたのが2012年ですから、およそ9年でこの症例数を実現したことになります。 

 

ひとつには、立ち上げを行った、婦人科総括部長の浅田と田島の文化づくりがあるように思います。一般的に病院は独立採算制を採らないことから、業務効率化や文化醸成の取り組みが遅れがちなのですが、立ち上げ当初よりそのような意識付けが行われたことは、間違いなく今日の当課を作っていると思います。 

 

立ち上げの際に、産婦人科統括部長である浅田と産婦人科部長の田島が、患者さんに直接関わる医療である臨床すべてを高いレベルで提供すると同時に、腹腔鏡手術を日本で最も施行するハイボリュームセンターを作りたい、と強く望み目標とした結果です。同時に医師の技量や技術以外の側面、たとえば育児をしながら働くとか長時間労働をなくす、など一般社会では当たり前のことができていなかった医師の世界にあった悪弊をなくし、人を大切にする仕事環境づくりも当初より意識したことが多くの産婦人科医を惹きつけ、現在の結果に繋がっていると思います。 

 

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田島)文化醸成の観点でいうと、腰を据えて臨床に向き合うという点を大事にしていますね。病院の規模が大きくなって組織が複雑になるほど、迅速な治療が難しくなることも考えられますが、当院では質の良い医療を数多く提供できるよう、様々な部分で効率化を行い、時間を捻出することにこだわっています。

 

浅井)質の高い医療を迅速に提供することと、数多く提供することの根幹には、相反する面があるかもしれませんし、執刀医の腕前技術も関わってきます。我々は技術も大切にしておりますが、それは名人芸や一子相伝のように一部が独占するものではなく共有すべきだと考えております。

 

当科では手術に携わる医師すべてが同程度の結果になる手術を提供できる体制をとっております。もちろん、難易度に応じて対応することも忘れません。その上で安全で確実な手術を迅速に施行するように日々の手術を適切に終了させるよう、毎日それぞれの手術管理者が麻酔科医、看護師と相談しながら協力しております。産婦人科以外の協力が、日本一の腹腔鏡手術症例数と継続性を維持している結果につながっていると思います。 

 

田島) 実際に、手技の質は一朝一夕では身につかないものですが、浅井の手技は、技術、速度ともに、医師の目から見ても驚かされます。特に婦人科手術で難易度が高いとされる深部子宮内膜症の手術に力を入れており、学会等でも講演依頼をされることが多くあります。 

こういった手術動画を互いに供覧して議論することで、より良い手技の共有する環境が出来ていると思っています。

 

転院せず内視鏡手術のみを受けることも可能とした柔軟な受け入れ体制を実現 

ーありがとうございます。こちらを読んでいる方の中には、現在、内視鏡手術を受けるべきか迷っている患者さんもいらっしゃると思います。新百合ヶ丘総合病院を受診される患者さんはどのような方が多いのですか 

 

田島)不妊で来院する患者さんは30代後半~40代の方が多いですね。また、当院が内視鏡手術を行えることもあり、子宮筋腫、子宮内膜ポリープ、卵巣嚢腫、子宮内膜症など婦人科系に問題を抱えている方が多いですが、もちろん婦人科系疾患を持っていない方も多く通院されています。ご自身で見つけてくださって、不妊治療を検討された初期からいらっしゃる方もいれば、現在通院している不妊治療クリニックから紹介されて内視鏡手術だけ受けにいらっしゃる方もいます。 

 

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浅井) 地理的には東京都、神奈川県などの関東圏からの紹介が多いですが、それ以外にも埼玉県、栃木県、群馬県、静岡県などからいらっしゃる方もいますね。内視鏡手術のみ希望される方は、現主治医と相談しながら、当日、もしくはその前後も含む数回の通院で済ませるよう工夫しており、通院負荷も軽減できるよう配慮しています。また手術までの待機時間もできるだけ少なくなるよう努力しております。現状では1,2か月で提供できる体制にあります。 

 

ー普段は別の不妊治療クリニックに通われている方が、内視鏡手術を受けることも可能なのですね。 

浅井)はい、我々の目的はあくまで患者さんが妊娠に至るお手伝いをすることですから、負担が少なく通院できることが一番良いと考えています。また、患者さんから医師にお願いしにくいこともあるでしょうから、全国の不妊治療クリニックの先生方に向けても、説明会を行い、内視鏡手術という選択肢が広まるような取り組みも行っています。 

 

 

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日本の不妊治療の患者さんが少しでも早期に妊娠できるような取り組みを行う 

ーでは最後に、先生方がこれから挑戦したいことを教えてください。 

 

浅井) まず、不妊治療を行っており、婦人科疾患を有している患者さんを数多く治療している中で、いつどのようなタイミングで内視鏡手術を行うのが最適なのか、など、現在経験則に基づいて行う意思決定をデータ分析でより強固なものにできるのではないかと考えています。当院には数多くのデータがありますから、そのデータを分析し、現在の医療をよりよくできるようなエビデンスを創出していくことに取り組みたいと考えています。 

 

田島) 婦人科疾患は痛みが伴うことが多く、患者さんのQOL (生活の質)が下がりやすいものであると感じています。また、患者さん自身は長年その痛みと付き合っていることから、自覚症状と真の症状が結びつかなかったりするんですよね。

 

その点についても、例えば患者さんのデータを解析することで、なにか示唆が出ると面白いのではないか、と思ったりします。データ解析をして得られた知見によって、全国の患者さんがよりよい治療を受けられる世界になると良いですね。 

 

浅井)全国の患者さんがより良い治療を受けられるように、という観点だと、自身が症例数を数多く積む中で得た知見を、どこか還元できる場を探していきたいです。 

 

田島)我々として一番嬉しいのは、全国の患者さんが早期に妊娠をしてくれることです。そのためにできることは今後も積極的に取り組んでいきたいです。

ー弊社もご協力させていただき、データ解析で生殖医療はもちろん、婦人科疾患の領域においても、より良い治療が提供できるような未来へ向けて一層尽力していまいります。浅井先生、田島先生、前半編、後半編と長時間のインタビューをお受けいただき、ありがとうございました。