【愛媛県】矢野産婦人科 医師インタビュー vol.20

· 医師インタビュー

 

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先代の想いを受け継ぎながら、生殖医療の新たな道を拓く

―産婦人科医を志したきっかけは?

矢野産婦人科は初代院長(父)が1962年に開設し、地域のお産を担ってきました。子供の頃から後継するものだと思っていましたので、特に迷わず医学部に進学しました。

大学1年の終わりに、がんで闘病中だった父が亡くなりました。父の後は義兄(仁位先生)が矢野産婦人科を続けてくれて、姉と共に夫婦で母を支えてくれました。早く一人前の医者にならねばという思いで学生時代を過ごしました。

 

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―生殖医療を専門とされた理由を教えてください。

 大学卒業後、地元に戻り愛媛大学医学部附属病院の産婦人科で研修をスタートしました。その時の指導医(杉並先生)が先進的な不妊治療を実践されていました。医師になって2年目の1983年に、日本初の体外受精(試験管ベビー)が東北大学で成功しました。愛媛大学でも体外受精が計画され、研修のため京都大学やニューヨーク (米国)などの施設に派遣されました。そこで顕微鏡下に見せてもらった「卵子」の美しさに魅了されて、「生殖医学」がライフワークとなりました。


フェムテックの精神で女性に優しく、すべての治療・検査を誰もが受けられるように

―ご施設の治療において、先生が大切に考えていることは?

女性に優しく、親切で丁寧な診療を心がけるようにしています。近年、女性が直面する妊娠・出産・更年期などのライフイベントや心身の健康課題をテクノロジーで解決しようという「フェムテック」という概念が浸透してきています。この根底にある女性中心の医療という考え方は、産婦人科医として大事にしなければならないと思っています。


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結婚して1年経っても妊娠しない場合は不妊外来の受診を

―不妊治療を始める最適なタイミングについて教えてください。

一般的に子供を欲しいと思っているカップルは1年以内に約80%、2年以内に約90%が妊娠します。3年以降の妊娠率はほとんど増えません。つまり、10組に1組は何らかの原因によって妊娠しづらくなっているということです。正常な夫婦生活があるにもかかわらず、1-2年経過しても妊娠しない状態を不妊症といいます。年齢が原因の場合もありますが、検査をしなければ分かりません。子供が欲しいと思っていて、1年経っても妊娠しない場合は不妊外来を受診してみるとよいでしょう。

ステップアップの前に内視鏡治療を

―妊娠率を上げるために、どのような工夫をされていますか?

タイミング指導や人工授精によって妊娠しない場合は体外受精にステップアップしますが、その前に内視鏡手術を行なう場合があります。卵管形成術(FT)、子宮鏡手術、腹腔鏡手術を行うことによって多くの方々が妊娠されています。

 

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―注目されている新しい技術や治療法はありますか?

沢山あります。着床不全(RIF)に対する検査や治療が進んできました。詳しくは触れませんが、検査は「着床の窓」を調べる子宮内膜着床能検査(ERA)、子宮内腔の乳酸菌検査 (EMMA)、慢性子宮内膜炎に対する原因菌検査(ALICE)、CD138染色検査などが注目されています。

治療としては、先進医療ではありますが、受精卵の着床前診断(PGT-A)による良好胚の選別、その他に再生医療(PRP, PFC: 保険適用外)などがあります。卵子の凍結保存はますます発展していくでしょう。当院は愛媛県から認可されている妊孕性温存療法実施医療機関です。

不妊治療に限らず、がんなど悪性疾患の治療前に卵子や精子の凍結保存を行って、将来の妊娠希望に備えます。さらに、健康な未婚女性の方にも実施していきます。未婚の方の卵子保存については、いろんな自治体が補助する方針を示しています。

妊娠された方のフォローも重要な課題です。不妊治療で苦労された患者さんは妊娠されると、今度は胎児に対して不安を抱きます。カウンセリングを充実して不安を軽減しながら、患者さんに寄り添うように努めます。希望する方は胎児精密超音波検査やNIPTなどの出生前遺伝学的検査を受けることができます。

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公的支援を最大限に活用し、諦めないでほしい

生殖医療については、日本で受けられるあらゆる治療や検査を誰もが受けられるようにしたいと思っています。経済的な理由によって不妊治療が受けられないということは、あってはならないことです。治療に際して公的援助を受けるには資格の取得や施設認定基準が設けられて大変ですが、患者さんの負担をできる限り軽くなるように努めています。


―患者様へのメッセージをお願いします。

一番伝えたいことは、「諦めないでください」ということです。時代は不妊患者さんに対してとても協力的になっています。2021年には厚生労働省より不妊治療と仕事との両立ができる働き方改革の指針が示されました。2022年には保険適用となり経済的な負担がずいぶん軽減されました。また、法律関係では代理懐胎について理解を示す見解も出てきています。
「お産」からスタートした矢野産婦人科は時代とともに発展を遂げながら、「命が芽吹く場所」として、これからも地域の女性の健康を生涯にわたりサポートしていきたいと思います。


―様々な支援により、子を望む多くの方が妊娠、出産できる社会になるとよいですよね。本日は貴重なお話をありがとうございました。