【福岡県】空の森KYUSHYU 医師インタビュー vol.10

· 医師インタビュー
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福岡県の南部、筑後地方に位置する久留米市。県内では福岡市、北九州市に次いで3番目に人口の多い久留米市に、2022年4月の不妊治療の保険適用化と同時期に開院した、空の森KYUSHU。同系列の沖縄県の空の森クリニックで診療をされていた中島章先生が、故郷の地、久留米市に開院した不妊治療専門のクリニックです。本日は、中島先生の開院の経緯や背景にある思いをお伺いしました。

 

患者さんの人生を変える生殖医療との出会い 

―先生が婦人科を目指そうとしたきっかけ、さらにその中でも生殖医療の道に進まれたきっかけがあれば教えてください。 

 学生時代に分娩の実習でお産を初めて見たとき、感動的だったのが最初のきっかけでした。もともと呼吸器内科を考えていましたが、この世界はものすごく面白いと思うようになり、いつか産科の開業医になろうと思うようになりました。

大学の婦人科で研修を始めたとき、古賀文敏先生という今は福岡市で開業された先生が不妊外来をされていたのを見学しました。そこで古賀先生が初診のご夫婦に丁寧に説明をされて、落ち込んで来られたご夫婦が最後には笑顔になって帰っていったのがとても印象的でした。夫婦にとって人生を変えるぐらいのインパクトを与えている場面に感動したのを覚えています。そのときに生殖医療って素晴らしいなと感じました。

―沖縄へ移られたきっかけは? 

沖縄県の空の森クリニックに入職する前は、蔵本ウイメンズクリニックで2年半勤務していました。そこでは年間1200~1300件を採卵していて、培養室も看護部も充実して、技術的にトップレベルのことが何でもできる状況の中で、ひたすら体外受精をやらせていただきました。

技術的に学ぶことが多く、今でも診療の礎になっているところはあります。しかし、一貫して同じ患者さんを見ているわけではなかったので、その方たちがどのようなストーリーでここに来て、どのように人生を捉えて不妊治療に挑んでいるのかというのが断片でしか捉えられていませんでした。

そのような時に、德永先生と出会い、空の森クリニックの構想を聞きました。ちょうど沖縄での体外受精を希望する患者さんが増えてきた時期でしたので、患者さんのために貢献できるのであればという想いから沖縄に渡りました。

 

沖縄から九州へ~空の森の理念を全国へ 

―今回、久留米で開業されたのには、どういう想いがあったのでしょうか。

地元ということもあるのですが、久留米を中心とした筑後地区、いつかはこの地域のためにと常々思っていました。実は久留米は交通の要所であり、福岡―鹿児島、長崎―大分を結ぶ自動車道がちょうどクロスするあたりに位置しているので、そういう意味では九州中の患者さんが来てもおかしくない地域にあります。

独立開業という手段もあったのですが、自分自身は空の森クリニックが好きでしたし、空の森の理念を沖縄だけにとどめず、国内に浸透させることができれば、もっとたくさんの人を幸せにできるのではと思い、空の森の系列としてやっていきたいという気持ちを德永先生にお伝えさせていただきました。

 

―空の森KYUSHUのロゴは洗練された素敵なデザインですね。

沖縄の空の森クリニックのロゴと同じデザイナーさんに協力いただいています。久留米には筑後川という川が流れていて、筑後川が土地を生み出す大きな源と考えられています。これをモチーフに、筑後平野というたくさんの人が暮らす地域を見守る存在であり、命を生み出す場所というのをイメージしてデザインしていただきました。

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患者さんと向き合い、心と体づくりを基本にした治療 

―診療はどのように進められているのでしょうか。 

まずは夫婦が「どういうことを想いながら治療していきたいのか」を確認するところからスタートするようにしています。通り一辺倒に体外受精をしましょうとか、これを何回、次はこれを何回といったステップアップの話ではなく、どのように治療と向き合いたいのか、夫婦でどれぐらいの温度差があり、どれぐらいの理解度があるのかを確認した上で、不妊治療とはどのような治療かを説明し、選択肢を提示していくようにしています。

空の森クリニックでは、心と体がどれだけ健康であるか、そしてそこに命が宿るというのが基本的な診療の考え方です。最初の1~2か月は、2人の生活習慣や採血データを見ながら体づくりをしましょうというのをアドバイスしながら進めるようにしています。

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―ストレスで妊娠できない方が多いと聞きますが、不妊治療の中でやはりストレスは取り除くことができないものなのでしょうか。

なかなか子供ができないことに対して、夫婦の在り方について悩んだり、旦那さんに相談すること自体に不安を抱えている方もいますし、治療への温度差がケンカにつながってしまうカップルもいたり、自己肯定感が低い状態になったりと、患者さんはそれぞれのストーリーを抱えて来られています。そのような足元が見えないところに光を照らして、少しでも希望を見出だすお手伝いをするということが、不妊外来で最初にやるべきことだと考えています。

ストレスが消えるということはないかもしれませんが、治療をしていることで、精神的にも、身体的にも良い方向へ向かっていくというのを感じて欲しいと思っています。最終的に妊娠・出産に至れば、それがいちばん望んでいたことなのかもしれませんが、そうでなかったとしても、ここに来てよかったと言っていただけるような診療をやらなければいけないと思っています。

 

保険診療か自費診療かを早めに選択することが重要なポイント 

―今でも夫婦間の温度差や、旦那さんが当事者意識をもっていないと感じるようなことはありますか?

以前に比べると、旦那さんの治療に対するハードルは相当下がったとのではないかと思います。うちは保険適用と同時に開院したので、来られる患者さんが比較的若いというのもありますが、若い世代のカップルはよく一緒に来て、旦那さんにも一生懸命に話を聞く姿勢が見られます。

保険診療になったことで、経済的な部分からも心理的なハードルが打開されて、2人が一緒に話し合う土俵に上がれる状態になったということだと思います。もちろん問診票に金銭面に不安があると書かれている患者さんもたくさんいますが、保険診療だと3割負担でこれぐらいの金額でできますとか、高額療養費制度の説明をすると、非常に安心されて、治療に対する前向きな表情をうかがうことができます。

 

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―現行の保険制度についてどのように思われますか?

今までが自由すぎたところもありますが、制限の多さは感じます。自分の中でこうやったら上手くいくのにというプロトコルが使えないことは残念ですし、保険で採卵したものは、保険でないと移植できないという縛りが出てしまうのが心苦しいというのが正直なところですね。

国としては、治療を受けられる方が増える分、安全にというところが大きいと思いますので、使える注射の量も規定範囲が狭くなっていて、最大限のポテンシャルを引き出せずに終わってしまうケースもあると思います。保険を活用できるところは上手く活用しながら、保険診療でよいのか、自費診療のほうがよいのかを早期にトリアージすることが必要です。

当院では、できるだけ最短で妊娠に結び付ける方法として、まずは自費でスクリーニングをかけて、今の状態をしっかりと知ったうえで、エビデンスをもとに治療法をご提案させていただくようにしています。それが患者さんにとって回り道ではなく、一番いいルートになるという想いでやらせていただいています。

 

―最後になりますが、患者さんに向けてメッセージをお願いします。

妊娠した先には育児が待っています。生まれてくるお子さんのためにも、その後の育児に耐えられる体づくり、心づくり、夫婦の関係づくりをしていくことが大切です。

不妊治療を題材に夫婦で話を始めると、男と女では考えていることがまったく違うことに気が付きます。そういった思いをあやふやにしたまま治療を進めて、出産して、育児をしていくと、どんどん気持ちが乖離していってしまいます。この治療の経験をうまく活用しながら、夫婦の絆を強めていただけたら嬉しく思います。

 

―この先も長くパートナーとして共に生きていくためにも、お互いの気持ちを話し合うことは大切ですね。本日は素敵なお話、ありがとうございました。